「ヴィムの側にいるのが怖いか」

黙って俯いているミレイユに、守護神が尋ねた。
ミレイユは少し躊躇って、小さく頷く。
神様に嘘なんかついても無駄だろう。

「王子の言うことを気にしているのか」

ミレイユはこれにも頷いた。

神様だってそうだけど、王子だってミレイユにとっては雲の上の存在だ。
そんな人に、ヴィムが神殿に移ってくれればなどと言われたら、ミレイユが身を引くしかない。

「……ヴィムは、神殿にいるべきです」

「ヴィムはというより、儂がだな」

「私は必要ありません」

「それはヴィムが決めることだ。王子が決めることでも、王や神官や民が決めることでもない」

「……それでも、私には耐えられません」

ミレイユは、ぎゅっと膝の上に置いた手を握り締めた。

「私には何もできません」

周囲の目を気にせずにいられるほど、ミレイユは厚かましくなれない。
そんな自信も、度胸もない。
ミレイユがヴィムの世話をしてきたように言われるが、実際のところ支えられてきたのは彼女なのだ。
結局最後だって、こうして逃げるように出てくることしかできなかった。

「……儂が守護神として存在することで、一番大切なことは何だと思う」

雨の音が二人の間の静寂に響く。
静かに神が切り出したのは、予想もしない問いだった。

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