「ヴィムならそなたの居場所を探して走り回っていた。今は足を腫らして動けないで寝ている。儂はその隙に少し抜け出てきた」

口調は老人のようだが、声は雨の中にもよく通り、凛として若い。
ミレイユが身動きを取れずにいるうちに、彼はうろの中に踏み込んできた。
二人、ようやく入る距離。
ふるりと軽く雨粒を飛ばすように体を震わせ、足元の感触を確かめてそこに伏せる。

「お座り。話をしよう」

「……あの」

「儂の正体ならわかっているだろう。国の守護神と呼ばれる者。ヴィムの中に入っている者だ」

神様、と声を漏らし、ミレイユは膝をついた。
戸惑ったすえ頭を下げたが、彼はその態度には興味がなさそうにしっぽで座るように促した。

「これまで色々な人の身体を住処としてきたが、あれほど度し難い人間はいない。あれほど面白い人間もいない」

ミレイユがそろそろと座ったのを確かめて、守護神は口を開いた。
可笑しそうに喉で笑う。
どんなふうに話しているのか不思議だったが、彼の声は自然に耳に届いた。

「選んだ甲斐があったよ。そろそろ大人しくしているのにも飽いていたから」

ちらりと視線を向けられて、ミレイユはどう反応していいかわからずに頷く。

「そなたにも感謝している。そなたがいなければ、あれを大人しくさせるのは不可能だっただろうから」

「私は何も……」

「ゆえに、戻ってもらわねば困るのだ。地位も身分も関係ない。儂がそなたを必要としているのだ」

金の瞳が、真っ直ぐにミレイユを射抜く。
その視線の強さに、ミレイユは動けなくなる。
逆らえるわけもない。
だが、了承することもできなかった。

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