体を抱えるように腕に力を込めて、ふと、昨夜ヴィムと一緒に眠ったことを思い出した。
最後の思い出にしようと思っていた。
人の姿の彼の部屋に行くのはそれなりに勇気が必要だったが、最後だという思いに突き動かされた。

彼の姿を、声を、体温を、ちゃんと覚えていたかった。
ずっと一緒にいた相手だ。
姿形は変わってしまったけれど、ヴィムがヴィムであることに変わりはない。
本当のことを言えば、最後に獅子の姿も見ておきたかったのだけれど、手を握ってもらったときに、人の姿で良かったと思った。
これが本当のヴィムだ。

ぽたりと前髪から雨粒が落ちて、つうっと頬を伝っていく。
惨めな姿に泣きたくなった。

なにしてるんだろう、私。
いったいこれからどうなるんだろう。

幸せになりたいわけじゃない。
ただヴィムを幸せにしてあげたい。

だけど私にはそんな力はないから、せめて私のことで煩わしい思いをしないように。
後ろ指を差されないように。
あるべき場所に、正しい姿で。
彼の時間を、私の為に使わせたくない。

「もう充分、たくさんもらったもの」

ミレイユは声に出して呟く。

これまでの生きる術を。
優しさを。
温かさを。

おかげで私はこうして成長できた。
もう一人で生きていける。

夜の冷気がミレイユを震わせる。
闇に沈むように、ミレイユはぎゅっと体を抱えて目を閉じた。

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