「寒い……」

気温が落ちて、ミレイユの体も冷え始めた。
雨に濡れない場所を探して少しずつ移動しているうちに、靴も服の裾もどろどろになっている。
しかし、そうしているうちに、人が入れそうなほどの大きな木のうろを見つけた。
動物の寝床だろうか。
ミレイユの小柄な体ならば、身を縮めれば中に入れるだろう。

うろの中に何もいないのを確かめて、ミレイユはそこへ滑り込んだ。
中は意外と広い。
ようやく雨を遮れる場所が見つかって、ほっと息をつく。
地面は枯れ葉が敷かれて柔らかい。
もう服が汚れるのも構わず、ミレイユは腰を下ろした。

「今日は野宿かな……」

この調子ではここから動けない。
暗くなって山に一人で泊まるだなんて危険極まりないが、今のミレイユには街まで移動する体力がなかった。
荷物は最低限しか持っていないし、食べ物もないが仕方ない。
家出を決めたときからどこか自暴自棄だっただけあって、どうにでもなれという気持ちが強かった。

立てた膝に顔を埋め、ミレイユはさぁさぁと雨が降り続く音を聞いていた。
寒い。
降りる場所を失敗してしまった。
だが、街中ではどこで馬車が止まるかわからなかったし、見つからないようにするためには仕方なかった。
自分の状況を整理しながら、ミレイユはただただ雨が止んでくれるのを願う。

もう屋敷に戻ろうとは思わない。
未練も後悔もあるけれど、私の居場所があの家であってはいけない。
身分も、地位も、財産も、何もない。
ヴィムの世話係だと言われながら、本当に面倒を見てもらっていたのは私のほうだったのだ。

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