5
ミレイユがいなくなったのは翌日のことだった。
神殿に行く用事のあったヴィムについてきたいと言ったので、珍しいなと思いながらも承諾して連れて行った。
仕事が終わるまで庭を散策してくる。
そう言ったので、ならば人をつけようと言ったがそれは丁重に断られた。
初めて来る場所でもないし、神殿内なら安全だろうというレイモンの口添えもあり、ミレイユを庭に見送ってから仕事についた。
だが、それが間違いだった。
ミレイユは戻ってくる気配を見せず、ぱたりと姿を消してしまった。
神殿の人々にも探させたが、それさえ無駄だった。
彼女は突然消えたのだ。
神殿の入口で、彼女の匂いは途切れていた。
獅子の、神の嗅覚でたどった結果がそれだったのだ。
疑う余地もない。
ヴィムがミレイユの匂いを間違うはずがない。
「……馬車か何か、乗り物に乗ったんだろうな」
レイモンが険しい顔で言う。
「連れ去られたってこと?」
「いや、だが、門番も庭師も何も見ていないし、その場に抵抗の跡も残っていない。出入りの者たちの中にも、ミレイユを見た者はいない」
アデリアの質問に、レイモンは首を振る。
ヴィムは冷水に足を浸してじっとしていた。
暗くなるまでミレイユを探して走り回ったせいで、彼の足は腫れている。
疲労で人の姿を取る余力もない。
それでもまた外に出ようとするヴィムをなだめすかして家に連れて帰るのに、神官とレイモンは相当苦労した。
「こちらにも戻ってないし……あの子行くとこなんてないでしょう。何もないのなら、じきに帰ってくるんじゃないかしら」
「だが、もう夜も遅い。一人で過ごすなんて……」
「心配するのはわかるけれど、捜索してもらってるんだし、貴方たちは自分の体のことも考えないと。きちんと食事を取って、呼ばれたときに動けるようにしておいて」
アデリアにぴしゃりと言われて、ようやくレイモンは頷いたが、ヴィムはぴくりとも動かなかった。
心臓が止まったかのように、人形のごとく押し黙っている。
レイモンは痛ましく思ってその頭を撫でた。
普段は嫌がられるその行為だが、ヴィムはレイモンの手を振り払うことすらしなかった。
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