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「急げ」
夜が明けきらないうちに家を出て、ヴィムは馬を走らせていた。
自分の足で駆けたほうが速いのだろうが、昨日ミレイユを探し回ったせいで動いてくれそうもない。
ミレイユはいまだ戻っていない。
無事でいるだろうか、と考えただけで背筋が震える。
「早く、城へ」
ヴィムは鞭を振るい、馬を前へと走らせる。
風が冷たい。
気持ちだけが焦り、道のりが遠く感じる。
ミレイユは自分の意志でいなくなったのだろう、とヴィムは思っていた。
証言もあるとおり神殿で何か事件が起こる可能性も少ないし、このところ彼女の様子は変だった。
なのに何もしてやれなかった。
ヴィムはぎりっと唇を噛む。
目を離すんじゃなかった。
避けられてもちゃんと話をすればよかった。
何を考えているのか。
何を悩んでいるのか。
人間の姿を取る前なら、こちらが何も言わなくても彼女から話してくれていた。
だから甘えていた。
いつか話してくれるまで、と。
ヴィムを避けるような悩みであるなら、それはヴィムのことだ。
レイモンの様子を見れば、そうなった原因は彼じゃない。
レイモンが絡んでいないのならば、アデリアでもない。
他に心当たりがあるとすれば、王子だけ。
ヴィムのことで彼女を悩ませるようなことを言いそうなのは、王子しかいない。
「あのやろう、ミレイユに何かあったら殺してやる……!」
馬を走らせて城へ着いたのは日が高くなり、街が賑わい始めた頃。
城門で倒れ込んだ人が獅子の姿に変わったのを見て、城の人々は大騒ぎになるのだった。
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