「おまえが出ていくと、ヴィムも寂しがるよ。なあ、ヴィム」

ただひとつ未練があるとすれば、それだ。

レイモンがヴィムに話を振り、彼はミレイユの足元でタルトと戯れている。
甘いものが好きな、変わった獅子だ。
ミレイユは眉を下げ、初めて寂しそうな表情を浮かべる。

「ヴィムはこの家をお守りするために来たのですから。お兄様がいるので大丈夫ですよ」

「駄目だよ、おまえがいないと。アデリアとは敵対してるし」

「……人見知りしますから。困った子ですね」

ミレイユの視線を受けて、ヴィムはご機嫌を取るように彼女の足元に頬を寄せる。
レイモンはそれを見て楽しげに笑う。

「うちを守ってるというより、ミレイユを守っているのかな、この子は。本当に困った守護神だ」

わが国の守護神は獅子と言われている。
オベール家が神職を司る神殿に祀られている神だ。

それにあやかって、レイモンが連れてきた獅子がヴィム。
獅子を家で飼うなどと庶民には考えられない発想だ。

しかし、ヴィムもすっかり腰を落ち着けているし、ミレイユもこの家で暮らすことができた。
結果的には良かったと言わざるをえない。

「ここを出るまでに、できるだけ言い聞かせておきます」

「出て行くのをやめるとは言ってくれないんだな」

「……すみません。そのお気持ちだけで十分です」

ミレイユは頑なな表情で、頭を下げる。
俯いた先で、じっとミレイユを見上げていたヴィムと目が合った。

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