こんな家さっさと出て行ってやる。

屋敷の中にアデリアの姿を見るようになって、ヴィムは固く心に誓う。

そして、思ったらすぐ行動。
「神様」が金に困るわけもなく、さっさと家の手配をした。
結婚後の忙しさで誰にもバレないうちに。

人の姿も定まらないうちに屋敷を出るのは、神官を含め周囲の人間に反対されているのは目に見えている。
ミレイユも一緒だとなると、尚更レイモンが嫌がるだろう。
さらに、神殿に戻れと詰め寄っている王家にも反対されるのは明らかだ。

しかし、もうこれ以上あの夫婦と暮らすのは嫌だ。
ミレイユは平気な顔をしているが、二人を目の当たりにするのは辛いはずだ。
王子も接触してきたことだし、ここに居てもろくなことはない。
何より俺が早く二人きりになりたい。

「ヴィム!」

ただし、一番の問題はこれだ。

庭で寝そべっているところに駆け寄ってきたミレイユが、うれしそうにヴィムに抱きつく。

「探したのよ。なにしてたの?」

ここのところ人の姿にも慣れてきたようだが、この態度の違いはいまだ健在だ。

毛並みを梳くように撫でられて、ヴィムはミレイユの膝に頭をのせる。
なんだかんだ、弱っているときに甘やかされるとこの状況に絆されてしまう。

ミレイユがこの姿を好むなら、これでいいじゃないか。

いや、だけど、男としてこれではまずい。

そんな自問自答を繰り返しつつ、心地良さにうとうとと目を閉じる。
ミレイユがその顔を覗き込んでくすりと笑う。

「お昼寝の時間ね」

子供のように頭を撫でられて、夢現の頭で誓った。

俺は甘やかされたいんじゃない、甘やかすほうになりたい。
やっぱりミレイユを連れて家を出よう、と。

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