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殿下にお会いしたの、とミレイユが途方に暮れたように言ったのは、結婚式の後だった。
ベッドの上に座り込んだミレイユの側に腰かけて、ヴィムは眉間に皺を寄せる。
「あのやろう」
ぼそりと呟くと、ミレイユが驚いて目を見開く。
「仲がいいの?」
「あー……うん、そうでもない。いや、幼馴染なんだ」
歯切れの悪い返答に、ミレイユは首を傾げる。
ヴィムの耳も困ったように垂れ下がる。
素直に嫌な奴だと言ってしまいたいが、ミレイユは王子にそんなことを言うなんて、と怒るだろう。
「何もされなかった?」
「私?いいえ。逆に、殿下だと気づかなくて無礼な態度を取ってしまって……」
「いや、それはあいつが名乗らないから悪いんだろ」
しょんぼりと肩を落とすミレイユの頭を撫でてやる。
「いいんだよ、おまえはどんな態度を取ったって。俺が王家の守護神なんだから、地位は俺のほうが高いんだ」
「殿下は、飼い主のようなものだって仰っていたけれど」
「それはまたいい度胸だな。あいつはいつから神より偉くなったんだ?」
俺が鼻で笑うと、ミレイユはきょとんとした顔で目を瞬かせた。
「ああ、貴方が神様なら、王様より偉いのね」
初めて気がついたというように言って、それから顔を蒼くする。
「じゃあ、私……」
「いいんだよ、おまえはそのままで。頼むから今までどおり傍にいてくれ」
これ以上距離を取られたら本気で泣く。
ヴィムはミレイユの手を取って、真剣な口調で言う。
ミレイユはちょっと身を引いて、戸惑ったように頷いた。
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