あれはヴィム。
あれはヴィムだ。

長椅子に座って手招きする美青年を前にこくりと息を呑み、ミレイユは覚悟を決めて近寄っていく。

「今朝は驚かせてごめん。わざとじゃないんだ」

ミレイユを腕の中に引き込み、ヴィムは彼女の顔を覗き込む。

「許してくれる?」

甘えるようにヴィムが頬を寄せてくる。
ミレイユはこくこくと頷いて下を向く。

よく通る声はミレイユに向けられて甘くなり、人を寄せ付けない雰囲気はとろけるほどに緩む。
あからさまな好意もヴィムと同じ。
けれど、髪を撫でる手をミレイユは知らない。

「あんなこと今までなかったんだけどな。獅子のほうに変わるならまだしも、人のほうに変わるなんて」

ヴィムは眉を顰めてぼそりと呟く。
ミレイユは不思議そうに首を傾げた。

「いいことではないの?」

「いいことだよ。だけど、コントロールできないとおまえが困るだろう」

悪戯っぽくヴィムが笑い、ミレイユは自分のためかと気づいて顔を赤くする。

「さすがに神様とやらは一筋縄ではいかない。もっと力を強めないと」

「……私も、早く慣れるように努力する」

「うん。早く。もっと近くにいたい」

ヴィムがミレイユの体に回した腕にぎゅっと力を込める。
これ以上どうやって近づくのだと思ったが、ミレイユは抱き締められて言葉を発することができなくなった。

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