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「ヴィムは悪さをしてないか?」
レイモンに呼ばれて、二人でお茶をしていた。
どこに行ったのか、ヴィムは朝から姿を見せていない。
ミレイユは困ったように眉を下げて、首を横に振った。
「嫌なことは嫌だと言っていいんだぞ。あれは昔から我儘な男だから」
「私がまだ慣れないだけで。ヴィムは何も。……いつも通りです」
「まぁ、姿が変わっただけで元々おまえにべったりだったからな。……いや、でも、違うだろう。あれは人間の男だ。ちゃんと警戒しなさい」
本気で言い聞かせられて、ミレイユは曖昧に笑って頷く。
レイモンはいつだってミレイユの味方だ。
従兄弟であり守護神を宿しているヴィムを優先するべきであろうに、今までと変わらずミレイユを一番に気遣ってくれる。
ミレイユに何かあると、真っ先に飛んで来てくれる。
本当は、今頃レイモンを忘れてひとり神殿で働いているはずだったのに。
ミレイユの頭にちらりと後悔がよぎる。
ヴィムの傍にいられることは、今の状況においても何よりもうれしいことだ。
だけど。
彼が人の姿を現して一ヶ月。
今までヴィムのことでいっぱいだったミレイユの頭は、つい先ほど現実に引き戻された。
「十日後にはアデリアがこっちに越してくる。今までのようには目が届かなくなるかもしれない。おまえは遠慮しすぎるから心配なんだ。何かあったら、ちゃんと俺に言うんだぞ」
レイモンの大きな手がミレイユの頭を撫でる。
結婚式が十日後に迫っていた。
「大丈夫です。ヴィムは私の嫌がることはしません。お兄様は、奥様のことを一番に考えていてください」
ミレイユはレイモンを安心させるように笑う。
笑顔がひきつっていないか心配だった。
しかし、それは成功したようで、まだ奥さんじゃないよ、とレイモンは照れくさそうに笑った。
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