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「ミレイユ!」
アプローチを3分の1ほど進んだとき。
ふいに名を呼ばれ、ミレイユは振り返る。
駆けてくる靴の音が耳に飛び込んできたと思ったら、視界が何かに塞がれた。
「……間に合った」
何が起こったのかわからない。
手から滑り落ちた荷物がどさりと足元に落ちる。
耳元には荒い呼吸。
体に回されたのは人の腕。
いっぱいに見開いた目の前には、白いシャツから覗く人の肌。
降ってきた声には覚えがない。
息を整えながら覗き込んできた顔にも、やはり見覚えがなかった。
「行くな」
掠れた声でそう言って、彼はなぜか泣きそうな顔をする。
ミレイユは突然起こったことに固まったまま、目を白黒させて立ち竦む。
「ヴィム!」
駆け寄ってくるレイモンの声が、聞き慣れた名前を呼んだ。
しかし、それを理解する前に、ミレイユの頭は真っ白になった。
「……ミレイユ」
重なった唇を離して、彼はミレイユの顔をじっと見つめて名前を呼ぶ。
それから再び息が詰まるほどに抱きしめられて、彼の腕の中でミレイユの意識はブラックアウトした。
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