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「今まで本当にありがとうございました、お兄様。これからは一人で頑張ります」
今度ははっきりと、レイモンの顔を見て告げる。
それを聞いたレイモンのほうが泣きそうな表情になり、ミレイユはその顔を見て、この人に家族だと言ってもらえてよかったと思った。
「どうぞ、お二人お幸せに。みなさまにもよろしくお伝えください」
素直に、心からそう伝える。
目の前の二人は隣に立っているのがよく似合っていて、幸せになることはわかっている。
「……元気で、ミレイユ。おまえもどうか幸せに」
そして、その言葉をレイモンからもらって、ミレイユはそれだけで幸せだと思った。
それだけで、これからも頑張っていける。
レイモンからの言葉を思い出して。
彼の声を思い出せなくなった後でも。
「……ヴィムにもさよならと。元気でいるようにと」
「ああ、ヴィムのことは任せておけ。おまえがここに懐かせてくれたから、心配はいらない」
「私をここに連れてきてくれたのもヴィムですから。ずっと一緒にいてくれて……最後に、会いたかったのですけれど」
ミレイユは、初めて寂しげな様子を表情に出す。
困ったやつだとレイモンは周囲を見まわしたが、ヴィムのいる気配はない。
「……仕方ないですね。それでは、そろそろ行きます」
「もう行くのか」
「約束の時間がありますし。わざわざ見送っていただいてありがとうございました」
まだ引き止めようとするレイモンに苦笑して、ミレイユは二人に礼を取る。
それから荷物を抱え直し、背を向けて用意してくれた馬車の待つ門へと歩き出した。
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