「悪かったな、引き止められなくて」

頭上から溜息が落ちる。
体を撫でる手が止まり、ヴィムは顔を上げる。

「……俺は家族になれなかったみたいだ」

珍しく、レイモンは落ち込んでいるようだった。
ミレイユが向ける気持ちと異なるとはいえ、レイモンはレイモンでとても彼女を大事にしている。
アデリアが牽制せずにいられない程に。

ヴィムは気だるげに頭を持ち上げ、軽くレイモンの手を噛んだ。
レイモンはヴィムを見下ろして、寂しげに笑う。

「慰めてくれるのか?」

尋ねられて、ヴィムは牙を立てる。

「いって、おい本気で噛むなよ!痛い!」

レイモンは慌てて手を引き抜き、驚いたようにヴィムを見た。
威嚇するようにひとつ吠える。
レイモンはヴィムの表情に気づいて眉を下げた。

「あー、そうだな。慰めてないよな。怒ってるのか」

そのとおりだ。甘ったれんな。
肯定するように低く唸る。

「おまえが一番引き止めたいよな。悪い、無神経だった」

レイモンの手が、さっきより優しさを持ってヴィムの背を撫でる。
無駄な気遣いはいらない。
ヴィムは拗ねた様子を見せて、頭を腕にのせてそっぽを向いた。

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