後悔はしたくない



壁外調査に向けてみんな慌ただしい気がする。
古城にずっと泊まり込みだから104期の同期ともあまり会えないでいるし、エルヴィン団長にも最近会っていない。
ハンジさんはよく来てくれるから頻繁に会っている気がするが…。

その日が続いているある日のお昼。
お昼ごはんの芋をフォーク刺した時だった。
「みんな休暇どうするの?」
ペトラさんの言葉に私は刺した芋から視線をペトラさんへと移した。
「休暇とかあるんですか?」
私は壁外調査前の忙しい時に休暇があることに少し驚いた。
「あるよー。……いつ私達は死ぬか分からないでしょ?だから壁外調査前にみんな休暇を取って親に会ったりとかするんだよ。まぁやりたいことをやっておく感じかな?」
「へぇ…。知りませんでした」
「初めての壁外だもんな」
エルドさんの言葉に頷いた。
「なまえちゃんは何したい?」
ペトラさんの質問に私は考える。
「………そうですね」

私にはここに親はいない。
元々あっちでも親元から離れて一人暮らしをしていた。
お母さんやお父さん…元気かな、心配してるだろうな…。

「…ちゃん……なまえちゃん?」
「あっ、すみません!ボーッとしてました!」
ペトラさんが私を呼んでくれた声で我に返った。
「私は特にすることないので休暇はいらないです」
私は微笑んで言った。
「お前、ないのかよ」
オルオさんが驚いた声で言う。
「まぁすることなくても休暇は取った方がいいぞ!」
グンタさんが言えばみんな頷いていた。

壁外調査は本当に大変なんだろう。
みんなはお父さんやお母さんに会いに行くのかな。
みんな若いから当たり前か…。


「おい、なまえ!お前の休暇は明日から2日間だからな」
ドアの所から声が聞こえてそちらを向けばリヴァイさんが立っていた。
「あ、明日ですか!?突然すぎますよ!」
「いいから明日だからな!」
リヴァイさんに強めに言われれば頷くしかなかった。

「なまえも明日なのか?兵長も明日休暇だとさっき言っていたな」
エルドさんの言葉に私は驚いて食べていた芋が喉に詰まりそうになる。
「大丈夫!?」
ペトラさんが水を渡してくれた。
「………す、すみません」
私は水を受け取り一気に飲んで飲み込んだ。
「…リヴァイさんも明日なんですか?」
「あぁ。明日の予定を指示されたからな。……まさかデートとかじゃないよな?」
エルドさんの言葉に私は思わず立ち上がる。
「デ、デートな訳ありません!!そんな約束してないですし、それにリヴァイさんとはそんな関係でもないです!!」
私は顔を赤くして言った。

なんで私はこんなに必死なのだろうか。

「……何赤くなってんだよ!」
オルオさんがニヤニヤ笑って言う。
「赤くなってません!!…エレン何とかしてよ!」
私はエレンに助けを求めた。
「えっ?俺!?」

今まで話を振られず、ずっと淡々とごはんを食べていたのだ。
「俺に言われても…」
エレンは苦笑いをしてスープを飲んだ。

「でも本当に何も約束もしてないので、たまたまに決まってますよ!」
「さぁ、それはどうだろうな」
グンタさんは笑いながら食器を片付けるため席を立ち上がった。
「えぇー…ペトラさん」
私は隣のペトラさんへと助けを求める。
「兵長が誘ってくれたらいいね」
「ペトラさんまで…」
私は盛大なため息をついた。


もし、リヴァイさんにデートに誘われたら…。
そりゃ嬉しいに決まってる。
でもここでは恋をしてはいけない。
…好きになったら辛いだけ。離れ離れにいつなるかなんて分からない。
誘ってほしいけど誘ってほしくない。
私は天秤にかけられたように頭の中はフラフラとしていた。


昼からの訓練はミスをしてばかりだった。
アンカーを出すのを遅れたり、模型の巨人のうなじを斬るのもいつもより浅かった。
「なまえちゃん大丈夫?いつもの調子出てないよね?」
「すみません」
私は集中できない自分に喝を入れてグリップを握り直して飛んだ。


夕方、訓練も終わって部屋へ戻ろうとすると私の部屋の前をウロウロしている見知った人を見つけた。
「………ハンジさん?」
「あぁ!なまえちゃん!聞いてよー!」
ハンジさんは私に縋り付くようにやってきた。
「どうしたんですか?」
「リヴァイが私に雑務押し付けてきたんだよー!私は巨人の研究で忙しいっていうのにさ!」
「えっと……」
私は苦笑いでハンジさんを見つめた。

「おい、俺は押し付けない。てめぇの言い方でなまえが勘違いするだろうが」
隣の部屋のドアが開いてリヴァイさんが出てきた。
「あれはどう考えても押し付けじゃないか!リヴァイは明日休暇かもしれないけどさ。私は巨人の研究で忙しい…」
「バカか!お前のせいでモブリットはいつも苦労している。雑務をやってないのはてめぇだろうが、クソメガネ」
リヴァイさんはハンジさんを睨んで最後にはため息までついた。
「雑務はほどほどにやってるさ。さてと、エルヴィンが寂しがるから帰るよ!リヴァイ、あまりなまえちゃんを虐めないでやってよ!じゃあね!」
ハンジさんは私の肩をポンと叩いてそのまま行ってしまった。

「……はぁ。…おいなまえ、明日俺の休暇に付き合え。分かったな?」
「えっ…あっ、はい」
リヴァイさんはそう言い、私の返事を聞けばそのまま自分の部屋へと入って行った。

突然のリヴァイさんの言葉に驚いて思わず返事をしてしまったけど、リヴァイさんと休暇を過ごすことになりそうだ。
私の心はザワザワする。
私は深く深呼吸をして落ち着かせればそのまま自室へと戻った。

自室へ入った時に気が付いた。
服なんて全然持ってないことに。
私は部屋から飛び出してペトラさんの部屋へと向かった。

ペトラさんの部屋をノックすれば「はーい!」と返事が帰ってきた。
「失礼します」と言い部屋に入ればペトラさんがこちらへと振り返った。
「あれ?なまえちゃん、どうしたの?」
「ペトラさん…リヴァイさんに休暇付き合ってくれって言われましたー。服持ってないです…」
私は苦笑いをして言えば、ペトラさんはニッコリ微笑んだ。
「貸してあげるよ!私とそんなに体格は変わらないし…でも身長はなまえちゃんの方が低いかな?でも多分大丈夫だよ!」
ペトラさんはそう言えば引き出しから服を取り出して探し始めた。
「すみません。手間を掛けさせて…」
「そんなこと気にしなくて大丈夫!なまえちゃんが兵長とデートなんだもん!」
「これってデートなんですか?」
私はペトラさんの言葉に少し顔を赤くする。
するとペトラさんは手を止めて私を見た。
「……私はデートのような気がするけど?」
ペトラさんは優しく笑ってくれた。
そしてまた手を動かし始めた。

そういえば思い出す。
アニメを観ている時、ペトラさんはきっとリヴァイさんが好きなんじゃないかなって。
私の勝手に思ったことだけど、もしかしたら今この時点でペトラさんはリヴァイさんのこと好きなんじゃないかなって。
もし、ペトラさんがリヴァイさんのことを好きだとすると私は今最低なことをしてないだろうか。

「……なまえちゃん、今変なこと考えてない?」
「…へっ?」
ペトラさんの言葉に私は驚いた顔をする。
「私はなまえちゃんが兵長とデートするの嬉しいよ?兵長は私の憧れの人でもあるの。そしてなまえちゃんは私の大切な仲間であって友達。そんな2人が付き合ったら私は嬉しく思うけどね?」
ペトラさんは微笑んで言った。
私の気持ちはペトラさんに読まれたのだろうか?
「……ありがとうございます。でも…私はリヴァイさんと付き合うとか出来ないと思います。…リヴァイさんのことは気になる存在だと思うんです。変にドキドキしたりとか…あるんです。だけど…いつ私がいなくなるか分からないです。会えなくなったら…辛いじゃないですか…」
私は泣き出しそうな気持ちを抑えた。

本当のことだ。私はこの世界の人間じゃない。いつか戻れるのかもしれない。
でも戻ってしまえばもうこの世界には来れない気がする。
それとも戻る前にこの世界で死ぬか…。
この世界は生と死の世界だ。

ペトラさんは私の頭を撫でてくれた。
「壁外へ出ればいつ巨人に食べられて死ぬか分からない。…なまえちゃん、後悔はしないでね。死んだら伝えたいことも伝わらないよ?」
ペトラさんは微笑んで私に服を渡してくれた。
「はい。これならなまえちゃんに合うと思うよ。明日、楽しんできてね!」
ペトラさんに渡された服は白のワンピースに裾に小さな花の刺繍がある可愛いワンピースだった。
「…ありがとうございます」
私は微笑んでペトラさんにお礼を言った。


後悔はしたくない。でも私はこの世界の人間じゃない。この気持ちは分からないけど……今は私の心の中にしまっておこう。




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