信じてほしい



夜になり夕ご飯を終えて、私とエレンは椅子に座っていた。
近くでリヴァイさんは腕を組んでいた。

「実際に敵意を向けられるまで気づきませんでした。あそこまで自分は信用されていないと…」
エレンは静かにそう言った。
「当然だ…。俺はそういう奴らだから選んだ。…生きて帰って初めて一人前ってのが通説だが、巨人と対峙すればいつだって情報不足。いくら考えたって何一つ分からない状況が多すぎる。…ならば努めることは迅速な行動と最悪を想定した非情な決断。…かといって血も涙も失った訳でもない。お前に刃を向けることに何も感じないって訳にはいかんだろ」
エレンは真剣な眼差しでリヴァイさんを見ていた。

ドアをノックしたと思えば、扉が開いてモブリットさんが顔を出した。
「リヴァイ兵長、ハンジ分隊長がお呼びです」
私とエレンは顔を見合わせた。
「おい、お前らも行くぞ」
リヴァイさんはそう言い、部屋を先に出て行く。
私とエレンも後を追った。

部屋に入ればハンジさんだけじゃなく、ペトラさん達も一緒にいた。
「クソでも長引いたか?」
リヴァイさんはそう言って部屋に入った。
「そんなことないよ?快便だったけど?」
ハンジさんはリヴァイさんの冗談?に普通に答えていた。

「上への説明に手間取っちゃってさ。まぁ、とりあえず……これを見てくれ」
ハンジさんはそう言えばハンカチの中に入っている物を机の上に置いた。
「ティースプーンですか?」
机の上に置かれたのはただのティースプーンだった。
ハンジさんはティースプーンを手に取った。
「そう…。エレンが出した巨人の右手がこれを摘んでいた。こんな風に人差し指指と親指の間でね」
「えっ?」
エレンは驚いた顔をしていた。
「偶然挟まっていたとは考えにくいね。しかも何故か熱や圧力で変形は見られない。何か思うことはない?」
ハンジさんはエレンに聞く。
「あっ、確かそれを拾おうとして…。巨人化はその直後でした」
「なるほど…。今回巨人化できなかった理由はそこにあるのかも。…巨人を殺す。砲弾を防ぐ。岩を持ち上げる。いずれの状況も巨人化する前に明確な目的があった。恐らく自傷行為だけが引き金になっている訳ではなくて、何かしらの目的がないと駄目なのかもね」
ハンジさんの推測は当たっている気がした。

今まで確かに目的があってエレンは巨人化をしてきた。でも今日の実験は目的があった訳ではない。
私は心の中で考えた。

「確かに今回の巨人化は砲弾を防いだ時の巨人化と似ています。けど…スプーンを拾うために巨人になるなんて…何なんだ…これは…」
エレンは考えるように呟いた。
「つまり…お前が意図的に許可を破った訳ではないんだな…」
グンタさんがエレンに聞く。
「はい!」
エレンは真っ直ぐグンタさんを見て答えた。
「はぁ…」
グンタさんは安堵の息なのか一気に空気を吐き出せば近くにいたエルドさんと目を合わせた。
そしてオルオさんやペトラさんとも目を合わせたと思ったら4人はエレンの自傷行為と同じように手を思いっきり噛んだ。

「えっ…えーーーっ!?」
ハンジさんは驚いた声を上げた。
「ちょっ…皆さん!」
私も知っている光景だが思わず声が出てしまった。
「ちょっと!何やってるんですか!!」
エレンは叫んだ。
リヴァイさんは静かに4人を見ていた。

「いってぇ…」
オルオさんが呟いた。
「これはキツイな…。エレン、お前よくこんなの噛み切れるな…」
エルドさんが噛んだ部分を見てからエレンを見て言った。
「俺達が判断を間違えた。そのささやかな代償だ。だから何だって話だがな」
グンタさんが微笑んで言った。
「お前を抑えるのが俺達の仕事だ!それ自体は間違ってねぇんだからな!調子に乗んなよ、ガキ!」
オルオさんが言った。
「ごめんね、エレン。私達ビクビクしてて…マヌケで失望したでしょ?でも…それでも私達は貴方を頼るし、私達を頼ってほしい。………だから私達を信じて…」
ペトラさんは真っ直ぐエレンを見て言った。
エルドさんやオルオさん、グンタさんも同じようにエレンを見て頷いた。

「エレン……私はある事情があって調査兵団に少しの間いたの。訓練兵に入る前に。……全く体力もなくて、立体機動すらできなかった私ができるようになったのはここにいるメンバーのおかげなの。私はみんなのこと信じてる。だから…エレン。信じて…」
私はエレンを見て微笑んだ。
「……俺達を信じろ」
ふと私の頭上からリヴァイさんの声が聞こえた。
そして頭にふわり手が乗せられた。
見上げればリヴァイさん。
リヴァイさんもエレンを真っ直ぐ見ていた。
「……はい。俺は皆さんのこと信じてます」
エレンは頷いてくれた。

ペトラさん達は安堵の表情をしていた。
ハンジさんは最初驚いた顔をしていたけど最後は笑っていた。



壁外調査はもう、すぐそこまで迫っている。
女型の巨人の正体は誰なのだろう。
知性を持っているってことは間違いなくエレンと同じように巨人化できる人間だ。

「なまえちゃん?どうしたの?」
ペトラさんが声を掛けてくれた。
「あっ、すみません。少し考え事してました」
私が微笑んで言えばペトラさんも微笑んだ。
「何かあれば相談乗るからね?同じ女の子同士なんだから」
私はペトラさんの言葉に大きく頷いた。
「はい、ありがとうございます」
ペトラさんは本当に優しい人だ。
でも私の今、考えていることは誰にも言えない。
例えそれがリヴァイさんでも言えないことだ。

みんな楽しそうに話したりする姿を見ればこの平和がずっと続いてほしいと願うばかりだった。




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