信じる心



今日は朝から少し離れた森で立体機動の訓練をした。
私はみんなに着いて行けるようになった。
この森では巨人の模型も設置してある。
訓練にはうってつけだ。
私はペトラさんと目を合わせればお互い頷いて目の前に現れた巨人に向かって行く。
ペトラさんが足元へと斬り込んで私はうなじに向かって飛ぶ。
ガスを吹かし一気に距離を詰めて模型の巨人のうなじを思いっきり斬った。
「…よし」
浅くはない。きっとこれなら巨人は死ぬだろう。
「なまえ、上手になったね!」
ペトラさんに言われれば私は微笑んだ。
「……ガスを吹かし過ぎだ。もう少し吹かす量を考えろ」
後ろから私達の様子を見ていたリヴァイさんに言われた。
「ですよね、すみません」
ガスを吹かし過ぎたのは自分でも分かった。
私は苦笑いをして反省した。

リヴァイさんは速い。
そりゃ訓練兵の頃はミカサやジャン、エレンのスピードは速かったけどそれを上回るスピードだ。
リヴァイさんは近くの巨人の模型を1人で簡単にうなじを削いだ。
本当にすごい人だと思う。


その後訓練後に今度の壁外遠征の時の作戦について話し合った。

エルヴィン団長が考案した長距離索敵陣形。
この紙を中心にリヴァイさん以外は集まっていた。
リヴァイさんの方を視線を向けると自分の愛馬に餌を与えている。
私は視線を紙へと戻す。
「俺達特別作戦班はここだ。後列中央待機」
グンタさんが指を差して教えてくれる。
「随分後ろなんですね…」
エレンはその指を差された場所を見ながら言う。
「この布陣の中で一番安全。補給物資を運ぶ荷馬車より手厚い待遇だ。まぁ今回行って帰ってくるのが目標だ。この壁外遠征が極めて短距離なのもお前をシガンシナ区に送るための試運転だからだ」
グンタさんは丁寧に説明してくれた。
「あの…俺にはこの力をどうしたらいいかも、まだ分からないままなんですが…」
「お前、あの時の団長の質問の意味が分かったか?」
エレンと私は驚いてグンタさんを見る。
「…先輩方は分かったんですか?」
「いいや…」
エルドさんが言った。
ペトラさんもグンタさんも首を横に振った。

「全てが分かったといえば嘘になるかもしれん。しかし俺には…」
「もしかしたらこの作戦には他の目的があるのかもしれない」
オルオさんが喋っている途中でグンタさんが話し始めた。
チラリとオルオさんを見れば悔しそうな、悲しそうな顔をしていた。
そして視線をグンタさんへと移す。
「だが、団長はそれを兵に説明するべきではないと判断した。ならば俺達は行って帰ってくることに終始すべきなのさ。…団長を信じろ!」
グンタさんが立ち上がった。
「はい…」

「今日の訓練はここまで。戻る準備だ」
その声で私達は立ち上がり、帰る準備を始めた。

愛馬のへいちょうの頭を撫でて私はへいちょうに乗る。
そしてみんなで私達の住む古城へと向かった。
着く頃には夕方になり始めていた。

私とエレンは古城に着いてから馬小屋の清掃と餌やりをした。
私は餌やりをしながら藁を片付けるエレンを見た。
エレンは何を思っているのだろうか。
私にはエレンの気持ちまでは読めない。

「なまえ、終わったか?」
エレンはこっちを向いていた。
「あっ、うん!もう少しで終わるから先に外で待っててよ!…多分外にオルオさんいるだろうし」
私は餌やりをしながら言った。
「おう!分かった!」
そしてエレンは外へと出て行った。

「ねぇ、へいちょう。これからどうなるのかな?私が知ってるのはさ…女型の巨人が巨大樹の森で捕獲される所までなんだよね。その後どうなるのか分からないから不安なんだよね。…でも知らないのが普通なんだもんね。……もうここに来て3年だけどさ、帰れるのかな?なんかもうここの生活に慣れちゃったよ。…リヴァイさんの傍にいられるならまぁ帰らなくても………」
私は"はっ"とした。何を小声でもこんなこと1人で喋っているんだろう。
しかも今の自分の発言……。
「ごめん、へいちょう。忘れてね。よし、また明日からもよろしくね!じゃぁね!」
私はへいちょうの頭を撫でてから馬小屋を出た。

馬小屋を出ればちょうどリヴァイさんが馬小屋に入ろうとした所だった。
「あっ、リヴァイさん!馬小屋の掃除と餌やり終わりましたよ!」
「あぁ…」
リヴァイさんは短くそう言えば私の頭をポンッと撫でてから馬小屋へと入って行った。
私は撫でられた部分を触った。
…なんでリヴァイさんは頭を撫でたりしてくるのだろうか?
私は小動物とか何かなのだろうか。
…まぁいいけど。

近くで騒がしい声が聞こえてそちらへと視線を向ければエレンとその周りにはいつもの104期のメンバー達が見えた。
…あぁそうか。みんな調査兵団に入ったんだもんね。

「あれ?なまえじゃねぇか!」
コニーがこちらを向いて言う。
「あっ本当ですね!なまえー!」
サシャがそう言えば手を振っていた。
私は微笑んで手を振り返してみんなの元へ行った。
「調査兵団に入ったんだ」
私はそう言えばみんなそれぞれ頷いてくれた。
「じゃ憲兵団に行ったのはジャンとアニとマルコだけ…」
エレンが呟いた時、後ろから足音が聞こえてそちらへ振り返ればジャンが立っていた。

「はっ!まさか、お前まで」
「マルコは死んだ…。なまえ、エレンに話してなかったのか?」
ジャンの視線が私に向けられる。
私は何も言えないでそのまま黙って下を向いた。
「…今何て言った?マルコが死んだって言ったのか?」
エレンの表情は私には分からないけど動揺している声だ。
「誰しも劇的に死ねるって訳じゃないらしいぜ。どんな最後だったかも分からねぇよ。あいつは誰も見てない所で人知れず死んだんだ…」
ジャンは静かに言った。
「マルコが…」
みんなも口を開かない。

「おーい、新兵!制服が届いたぞ!」
突然聞こえた新兵を教育しているであろう同じ調査兵の人の声が聞こえた。
その声にみんなそちらを向いた。
私もそちらへと視線を向ける。

みんなは団服を受け取りにそちらへと行った。
私とエレンはそのままその場に立っていた。
みんなが緑のマントを羽織る。
背中には自由の翼。
みんなの後ろ姿は覚悟を決めたような背中をしていた。
風が吹いてマントが揺れている。
その中に私はマルコがいるような気がした。
同じ自由の翼のマントを羽織るマルコの姿が。



夜になり、私とエレンはリヴァイさんに同期と会う許可を貰い1つの部屋に集まった。
「お前ら…本当に…」
「そう。私達も今度の作戦に参加する」
ミカサが言った。
「なぁ、エレン。お前巨人になった時ミカサを殺そうとしたらしいな。それは一体どういうことだ?」
ジャンがエレンを真っ直ぐ見つめて言った。
エレンは"はっ"とした顔をしていた。
「違う。エレンはハエを叩こうとして…」
「お前には聞いてねぇ…」
みんな驚いた顔をする。

ミカサの嘘はいつも通り下手くそだけど、ジャンがミカサに言う発言には驚いた。
「なぁ、ミカサ。頬の傷はかなり深いみたいだな。それはいつ負った傷だ?」
ジャンが自分の頬に指を当てながら言えば、ミカサは傷を隠すように髪の毛を触った。
「…本当らしい。巨人になった俺はミカサを殺そうとした…」
エレンはジャンから目を逸らして言った。
「らしいって言うのは記憶にねぇってことだな?つまりお前は巨人の存在を今まで知らなかったし、それを掌握する力も持ち合わせていないと…」
「…あぁ、そうだ」
エレンは静かに肯定した。

「はぁ…お前ら聞いたかよ。これが現状らしいぞ」
ジャンは振り返って後ろにいるみんなに言った。
「俺達と人類の命がこいつにかかっている。俺達はマルコのようにエレンが知らない内に死ぬんだろうな…」
「ジャン!今ここでエレンを追い詰めることに何の意味があるの?」
ミカサが背を向けるジャンに言う。
「あのな、ミカサ。誰しもお前みたいにな、エレンのために無償に死ねる訳じゃないんだぞ。知っておくべきだ。俺達は何のために命を使うのかを。知らねぇといざという時に迷っちまうよ。俺達はエレンに見返りを求めている。きっちり値踏みさせてくれよ。自分の命に見合うのかをな。……っ」
ジャンはそのままエレンの元へ行き、両肩を掴んだ。
「だから、エレン!お前本当に…頼むぞ!」
「…あぁ」
エレンは目を見開いたままジャンに答えた。

そのまま今日は解散となった。
ミカサとアルミンは最後までエレンのことを心配そうに見ていたけど私に少し微笑んでから部屋を出て行った。
私はエレンに何と声を掛けていいか分からず、そのままエレンの横にいた。

「俺は…みんなを人類を守れるのかな…」
エレンの呟きに私はエレンを見つめて頷いた。
「エレンならやれるよ。私はエレンのこと信じてるから…」
今後どうなるかは分からないけど1つ言えることは私はエレンを信じているっていうことだ。
ミカサやアルミンだってエレンのことを信じてる。

エレンは驚いた顔をして私を見た。
「…ありがとう」
エレンはそう小さく呟いた。
私はそんなエレンに微笑んだ。




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