うるさい心臓



ごはんも食べ終わり、ペトラさんと食器の洗い物を終えてから食後のティータイムでみんなに紅茶を出した。

「我々への待機命令はあと数日は続くだろう。30日後には大規模な壁外遠征を考えていると聞いた。それも今期卒業の新兵を早々に混えると…」
エルドさんが静かに言った。
その言葉に私とエレンは反応したようにエルドさんを見る。

「そりゃ本当か、エルド!随分急な話じゃないか。ただでさえ今回の巨人の襲撃は新兵には堪えただろうによ」
グンタさんが驚いて言った。
「ガキ共はすっかり腰を抜かしただろうな」
紅茶を飲みながらオルオさんが言う。
「本当ですか?兵長」
ペトラさんがリヴァイさんを見て聞く。

「作戦立案は俺の担当じゃない。だが、エルヴィンのことだ。俺逹よりずっと多くのことを考えているだろう」
リヴァイさんは椅子にもたれて言う。
「確かにこれまでの状況が異なりますからね。ただいな犠牲を払って進めてきたマリア奪還ルートが一瞬にして白紙になったかと思えば、突然全く別の希望が降って湧いた…」
みんなエレンを見ていた。
エレンは驚いた顔をして私達1人1人を見る。

「いまだに信じられないんだが、巨人になるっていうのはどういうことなんだ?…エレン」
「…その時の記憶は定かではないんですが、とにかく無我夢中で…。でもきっかけになるのは自傷行為です。こうやって手を…」
エレンは手を見つめてそのまま固まった。

「お前らも知ってるだろ。報告書以上のことは聞き出せねぇよ。まぁ…あいつは黙ってないだろうが…。下手に弄り回されて死ぬかもな、お前。…エレン」
リヴァイさんがそう言えば紅茶を変わった持ち方で飲んだ。

なんだっけ?リヴァイさんがあの持ち方をする理由…。確か聞いたことあった気がする。
私はリヴァイさんを見ながら考える。
でも思い出せない。

「あっ、あいつとは!!」
エレンがリヴァイさんに聞く。

ドンっ!!!
「うわぁっ!」
突然扉にぶつかる音と誰かの声が聞こえた。
驚いてそちらへと目を向ける。

私とペトラさんで目を合わせてその扉へと歩いて行き、木で開けれないように固定されていた木を退かしてドアを開けるとやっぱりそこにはハンジさんが立っていた。

「こんばんは!リヴァイ班の皆さん!お城の住み心地はどうかな?」
ペトラさんはニコニコしながら部屋に入ってきた。
「早かったな…」
リヴァイさんが言う。
「居ても立ってもいられないよー!」
ハンジさんはそう言えば真っ直ぐエレンの元へと歩いて行った。
私とペトラさんでドアを閉めて、また固定をし椅子に座り直す。

「ハンジ分隊長…」
「お待たせ、エレン。私は今、街で捕らえた2体の巨人の生態調査を担当しているんだけど明日の実験にはエレンにも協力して貰いたい!その許可を貰いにきた!」
「実験…ですか?俺が何を…」
エレンは困ったような顔をした。
「それはもう…最高に滾るやつをだよ…」
ハンジさんは顔を赤くして興奮している。
それを見てみんなの顔が引いていく。

「あっ、あの許可については自分では下せません。自分の権限を持っているのは自分ではないので…」
「リヴァイ!明日のエレンの予定は?」
ハンジさんはリヴァイさんを見て尋ねる。
「庭の掃除だ」
「なら良かった!決定!」
ハンジさんはそう笑うとエレンの手を掴んで握る。
「エレン、明日はよろしく!」
「あっ…はい。しかし、巨人の実験とはどういうものですか?」
「うん?」
ハンジさんの顔付きが変わる。
「いや、あの巨人の実験とはどういう…」

「おい、聞くな!」
オルオさんが小声で言う。
「エレン…」
私も小声でエレンに言う。

「あー、やっぱり?聞きたそうな顔してると思った」
その言葉が合図かのようにみんなが席を立つ。
私も席を立った。
「エレン…頑張って」
私はエレンの肩を叩いてそのまま部屋を出た。
エレンは何のことか分からず私の顔を不思議そうに見ていた。

ごめんね、エレン。
私ではハンジさんを止められないよ。


みんな部屋から出るとそれぞれ自室へと向かった。
私も自室へ行こうとすると腕を掴まれて振り返る。
掴んでいたのはリヴァイさんだ。
「リヴァイさん?」
「ちょっと、来い」
私はリヴァイさんに腕を掴まれたまま、リヴァイさんの自室へと行った。

「リヴァイさんどうしたんですか?」
私は部屋に入ってからリヴァイさんに聞く。
「……昨日の審議場でお前はなぜ口を挟んだ?」
「……え?」

審議場での私が喋った言葉。
"…エレンもミカサもそんな人じゃない!2人とも人間です!私の大切な友達です。そんなこと…言わないでよ!"
私はあの時、エレンとミカサが罵声を浴びるのはすごく嫌だった。
無意識の内に私はあの時叫んでしまった。

「あれは…エレンとミカサはちゃんとした人間なのにそんなこと言われたら嫌じゃないですか。思わず、言っちゃいました」
私は唇を噛み締めてリヴァイさんから視線を外す。
「お前、自分のこと分かってるのか?お前はこの世界の者じゃない。お前こそ巨人に間違えられても仕方ないんだぞ」
「そうかもしれませんが……。でもエレンやミカサがそんな風に言われるのは嫌だった!2人は訓練兵の時から仲良くしてくれてる大切な友達です!友達をそんな風に言われるのは私は嫌だ!」
私は真っ直ぐリヴァイさんを見て言った。

エレン、ミカサ、アルミン。
3人は私にとって本当に大切な友達だ。
ジャンやクリスタ、ユミル、サシャ、ライナー、ベルトルト、コニー、アニ、そしてマルコ。
その他の訓練兵の人も大切な友達で仲間。
そんな風に罵声を浴びせるのは本当に許せない。

「………はぁ。なまえが友達や仲間を大切にしてることはよく分かる。お前は自分のことを考えてない。壁外へ出てもお前はきっと自分じゃなくて仲間を優先するだろう。…もっと自分を大事にしろ。違う世界から来たと知られるとお前は解剖され、殺される。…分かるな?」
リヴァイさんは真剣に言った。
私はリヴァイさんの言葉に静かに頷いた。

「でも、誰も死なせたくない。…だけどもう私が知ってることはありません。壁外調査の途中までしか分かりません。…もう守れない。私なら助けられたかもしれないのに…」
私は泣き出しそうになる。
「……本当お前はバカだな。調査兵団に入るって言ったのも仲間を助けようと思ったんだろ?」
私は驚いてリヴァイさんを見る。

「何となく分かるんだよ。調査兵団のやることを知りながら入るって言ったからおかしいと思った。仲間を守るのは大事かもしれねぇが、壁外へ出れば別だ。自分を守れ。自分を守れるのは自分しかいねぇんだ…」
リヴァイさんの言葉に小さく頷いた。

すると腕を引っ張られて抱き寄せられる。
「……リヴァイさん?」
「俺がお前の近くにいるなら俺はなまえを守る」
私はリヴァイさんの言葉に驚いた。
「………ありがとうございます。リヴァイさんこそ自分のことも守って下さいよ」
「…俺を誰だと思ってるんだ」
「……人類最強のリヴァイ兵士長様です」
私は抱き締められたままクスクスと笑った。
「まったく…」
リヴァイさんはそう言えば私を離してくれた。

「明日は庭の掃除をする。覚えておけよ」
「えぇー?私もエレンと一緒に着いて行きたいです!ソニーとビーンに……あっ」
私は思い出した。
ソニーとビーンは何者かに殺されることを。
「なんだ、どうした?」
リヴァイさんは不思議そうな顔をする。
「……いえ、なんでもないです」
私は苦笑いをして髪の毛を触った。

これを言ったらストーリーが変わるかもしれない。
言ったらダメなことだ。

「…はぁ。まぁいい。明日も早いからもう寝ろ!」
リヴァイさんはそう言い、私の頭をポンポンと撫でてから机に向かった。
「…はい。おやすみなさい」
私は頭を下げてリヴァイさんの部屋を出た。


自室に帰ればそのままベッドに座る。

"俺がお前の近くにいるなら俺はなまえを守る"
あの言葉はなんだろうか。

私が異世界から来たから心配しているのだろうか。
本当にリヴァイさんこそ仲間思いで優しい。
私はリヴァイさんに抱き締められた感覚と守ると言ってくれた言葉で心臓がうるさかった。

何、ドキドキしてんだろう。

「本当バカみたい…」
私はそう口にしてからそのままベッドに倒れ込んだ。





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