古城の大掃除



「おーい!」
グンタとエルドさんが私達のいる場所へやってきた。

「兵長が今から掃除をすると言ってたぞ!」
グンタさんの言葉に私は苦笑いを浮かべた。


そして掃除が始まった。
いつもの掃除スタイル、口元に三角巾をつけて。
ずっと使われてなかったのか埃はすごく溜まっていた。
私は雑巾とバケツを持って、ペトラさんが箒で掃いた後床拭きをした。

掃除をしていると部屋の中からリヴァイさんとエレンが喋る声が聞こえた。
きっと掃除が終わったみたいなことを話しているんだろうな。

そしてリヴァイさんはエレンを残して部屋を出て行った。
…エレン、リヴァイさんにやり直してって言われると思うよ。
私は心の中で呟いた。

「失望したって顔だね、エレン!」
ペトラさんがエレンに喋りかけている姿を見て私もエレンがいる部屋に顔を出す。
「…はいっ!?」
エレンは驚いた顔でこちらを振り返った。
「あっ、エレンって呼ばせて貰うよ!リヴァイ兵長にならってね!ここでは兵長がルールだから」
ペトラさんはニコニコしていた。
私と初めて出会った時と同じように。
「はい…。それは構いませんが。俺、今失望って顔してましたか?」
「珍しい反応じゃないよ。世間が言うような完全無血な英雄には見えないでしょ?…現物のリヴァイ兵長は…。思いのほか小柄だし、神経質で素朴で近寄り難い…」
私はペトラさんの発言に確かにそうだなと思ってしまった。
「いえ、俺が意外だと思ったのは上の取り決めに対する従順な姿勢です」
「強力な実力者だから序列の形にははまらないような人だと思った?」
「はい…。誰の指図も意に介さない人だと…」
エレンは下を少し向いて言った。
「私も詳しくは知らないけど以前はそのイメージに近い人だったのかもね。リヴァイ兵長は調査兵団に入る前、都の地下街で有名だったゴロツキだったって…」
「そんな人が何故?」
エレンが驚いた顔をして聞く。
「さぁね?何があったのか知らないけどエルヴィン団長の元を下る形で調査兵団に連れて来られたって聞いたわ。…なまえも兵長に聞いてない?」
突然話を振られて驚いてペトラさんを見る。
「……私は何も…」

「おい!エレン!」
後ろから声が聞こえてビックリして振り返れば不機嫌そうな顔をしたリヴァイさんが立っていた。
「…!!」
「はいっ!」
エレンはビクッとして姿勢を正す。
私は壁を雑巾で拭くフリをして、ペトラさんは箒で掃くフリをする。

「全然なってねぇ。…全てやり直せ!」
リヴァイさんの声でエレンは「はいっ!」と大きな声で返事をしたかと思えば一目散に部屋を出て行ってしまった。
私はエレンの後ろ姿を見ながら「頑張って」と心の中で声をかけた。

「なまえとペトラは何をしている?」
「すみません、兵長!ちょっと埃が見えたのでここを掃いていました」
ペトラさんもそう言えばそのまま部屋から急いで出て行ってしまった。
そしてリヴァイさんの視線は私へと移る。
「………えっと、汚れが見えて…」
私が苦笑いをして言えば、リヴァイさんは大きなため息をした。
「まぁいい。このままだとエレンの掃除は終わらない。なまえ、エレンの所を手伝ってこい」
リヴァイさんはそう言えば自分の掃除を再開させた。
「……はい!」
私は返事をして急いでエレンが掃除している場所へと向かった。


「エレンー!!」
私はエレンが掃除している部屋に入り、名前を呼んだ。
「…なまえ!?」
エレンは箒を持ったまま驚いた顔をしていた。
「リヴァイさんが手伝って来いって!」
私は微笑んで雑巾を持って言う。
「そうか。ありがとう、助かる!」
エレンは微笑んでくれた。

「じゃこっち拭くね!」
「おう!頼む!」
エレンと言葉を交わして拭き掃除を始めた。


「なぁ、なまえ。なんでなまえもここの班に配属になったんだ?」
エレンが箒で掃きながら私に聞く。
「……なんでだろ?」
私はエレンを見て苦笑いをした。
「なまえって訓練兵の頃からリヴァイ兵長と仲良いんだよな?よくなまえに会いに来てただろ?」
私はエレンの言葉にまた苦笑いをしてよく周り見てるんだなって思ってしまった。
「仲良いというか…助けてもらったというか…。なんだろう」
私はリヴァイさんと出会ったことを思い出した。

どうしてトリップしてきたのかはわからない。
でもリヴァイさんがいなかったら私はずっと彷徨い続けてきっとあの日、つい最近の出来事。
超大型巨人に扉を壊された日に私は巨人に食べられて死んでいただろう。
調査兵団に入れたことに感謝しなくてはいけない。

「おい、なまえ?」
「あっごめん」
私はエレンの声で"はっ"と我に返った。
「でもなまえがいて良かった。ここで新兵俺1人はすげぇ心細いつーか…」
エレンの言葉に私は微笑む。
「そう思ってもらえて良かった!よし、掃除頑張ろう!早くやらなきゃごはん食べれなくなるよ!」
そして掃除を再開した。

エレンとたまに雑談をしながら掃除をした。
何だか久しぶりの平和な気がして私は嬉しかった。
訓練兵時代を思い出す。
掃除を始めるといつもエレンとジャンが喧嘩をする。
見慣れた光景だったな。

「おい、終わったか?」
リヴァイさんが部屋にやってきた。
「あっ、もう終わります!」
私は雑巾を絞って答えた。
「……まぁ綺麗にはなったな」
リヴァイさんが辺りを見回したりして言った。
エレンは安心した表情になった。
そしてエレンと目が合い、私はエレンを見て微笑んだ。



ここの古城では自炊もしなくてはいけない。
私はペトラさんと並んでごはんを作る。
私は芋の皮を剥く。
ペトラさんはスープを作っていた。
「なまえちゃんとごはん作ってるなんてすごく不思議な感じがするね」
ペトラさんスープを混ぜながら言った。
「そうですね。ペトラさん達が傍にいると調査兵団に入ったなってすごく感じます」
「もう3年も前だよね?突然なまえちゃんが調査兵団にやってきたの。驚いたけど一緒に訓練して楽しかったよ!」
ペトラさんと目が合う。
「本当ですか?でもあの頃すごい皆さんに迷惑かけてましたよね。体力全然なくてもう走ってるだけで倒れそうでした」
「迷惑なんて全然思ってなかったよ。でも大丈夫かなってみんな言ってた。特にオルオがね!」
ペトラさんは微笑んだ。
「オルオさんが!?心配かけてしまってましたね。でも無事に訓練兵も卒業したのでもうみんなに心配かけさせませんよ!」
「ふふっ!期待してるよ、新兵!!」
ペトラさんがわざと"新兵"って言ったのに私は笑顔で「はい!」と頷いた。


無事にごはんの準備が終わり、みんながやってきた。
「おっ、いい匂いがするな!」
「あー腹減った!」
エルドさんとグンタさんが口々に言う。

最後にリヴァイさんとエレンが入ってきた。
ごはんを出せばオルオさんがジッとごはんを見ている。
「味付け大丈夫だろうな?」
「何言ってるのよ!大丈夫に決まってるでしょ!」
オルオさんの言葉にペトラさんが睨む。

そしてごはんを食べ始めた。
「これ、うまいな!」
「うまい!」
「美味しいです!」
「ふんっ、まぁまぁだな」
みんな口々に言いながら食べていたが、リヴァイさんは一言。
「…悪くねぇな」

これはきっとリヴァイさんなりに褒めているのだろうと思うことにした。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -