調査兵団の新兵



私は何度目かの寝返りをした。
先程の食堂でのアニとのやり取りが気になった。
アニはきっと気が付いている。
私はふいに悟られるようなことを口走ってしまったのだろうか。

アニと一緒に行動した時は確かトロスト区奪還作戦の時だったはず。
あの時、ジャンとコニーとアニと同じ班だった。
………そうだ。私は「マルコが危ない」ってあの時必死になっていたんだ。
そしてその言葉通りマルコは……。
下手なことは言えないと私は思った。

でも、私が知っている情報はもうあまりない。
女型の巨人が襲ってきて……その後どうなるかなんて知らない。
本当に後悔をする。最後までアニメを見ておけば良かったとか漫画も奈緒に借りて全巻読めば良かったって。
でももうここにいるからそれは叶わない願い。

私はもう何度目か分からない寝返りをうつ。
朝になれば訓練兵じゃなく調査兵団になる。
私は目を閉じて眠ることだけに集中した。



「なまえ、朝だよ!」
クリスタの声で少しずつ目が覚める。
私はいつの間にか寝てしまったみたいだ。
「ん…クリスタ、ありがとう」
私は目を擦りながら目を覚ました。
上体をあげて背伸びをする。

ベッドから降りて団服に着替える。
いつも着る訓練兵の団服じゃなく今日からは調査兵団の団服。
腕を通せばなんだか身が引き締まった。

「わぁ!なまえが調査兵団の団服だ!」
クリスタが驚いた声をあげる。
「そうなの。今日から調査兵団だから」
私は微笑んだ。
「なまえが着てると早く死にに行くみたいだな」
「ユミル!そんなこと言わないで!」
ユミルが笑いながら言えばそれをクリスタが止める。
いつも見てる光景がやっぱり寂しく感じる。

「死なないように気をつけるよ」
私は苦笑いで言う。
「なまえ、食堂へ行こう」
ミカサの誘いに頷いて、私は食堂へと向かう。

その途中でいろんな訓練兵からの視線を感じた。
そりゃ訓練兵の団服じゃなくて調査兵団の団服を着ているから目立つ。

食堂につけばアルミンが待っていた。
「なまえ、ミカサおはよう」
アルミンは笑顔で迎えてくれる。
「おはよ」
私とミカサは声があったかのようにハモったから2人で見合った。
私はミカサを見て微笑めば、ミカサも少し微笑んだ気がした。

「なまえ、調査兵団の団服なんだね。先に越されちゃったみたいだな」
アルミンが私の団服を見ながら言う。
「そうかな?でも実はね、訓練兵になる前は調査兵団の団服着て訓練してたんだよ?」
私は今言った言葉に一瞬戸惑った。

これは言っても大丈夫なことなのか?
アニが気が付いたようにバレるかも…。
特にアルミンなんて頭が良いからすぐに…あぁなんで私はこんなにおっちょこちょいなんだろう。

「訓練兵になる前?なまえは調査兵団で訓練ってどうして…」
「お腹空いちゃったね!さっ、ごはんにしよう!」
私はアルミンの言葉を遮って配膳の列に並んだ。

きっと今の話でどうして調査兵団で訓練していたのか聞かれてしまう。
私の事情を話す訳にはいかない。
これはリヴァイさんと約束したことだ。
例えそれが、エレンやミカサ、アルミンだったとしてもこれは話せないことだ。

ごはんを食べる時いつも通り、アルミンとミカサと食べたけど2人ともさっきの話はしなかった。
本当に2人とも優しいなって思った。
きっとコニー辺りなら間違いなくしつこく聞いてきた気がする。


ごはんを食べ終えて私は部屋へ戻り、荷物を持った。
「よし、忘れ物はないかな」

そして部屋を出て外へ行けば何故か仲の良いみんなが集合していた。

「あれ?みんなどうしたの?」
私は驚いた顔をする。
「どうしたじゃねぇよ!見送りだよ!」
コニーが笑いながら言う。
「見送りとかいいよ!そんな会おうと思えばいつだって会えるのに!」

「確かにそうかもしれないな」
ライナーが言う。
「でも、みんなありがとう。こうやって送って貰えて私は幸せ者だな。またどこかで会えたら…また声掛けてよね」
私はみんなに微笑んだ。

私はミカサとアルミンがいる所へ1歩近付いて2人が聞こえる小さな声で呟いた。
「……2人が調査兵団に入るなら待ってる」
ミカサとアルミンは驚いた顔をしていた。
そしてミカサが私の腕を掴む。
私はミカサを見る。
「…エレンのこと頼んだ」

ミカサは心配そうな顔で言っていたから私は大きく頷いて微笑んだ。

「それじゃみんな行ってきます!」
私は大きく手を振って、訓練兵の宿舎を出た。

もうここに戻ってくることはない。
私は今日から調査兵団の一員なんだ。



調査兵団本部に着けばリヴァイさんが玄関先で待っていた。
「おい、そんなにクソするのに時間がかかったのか?」
「あっ…すみません」
私は頭を下げてふと周りを見ればペトラさん達が馬に乗って待っていた。
ペトラさんの隣にはエレンもいる。

「皆さん…待たせてましたか?」
私は小声で言えばリヴァイさんが私を見て睨む。
「…見れば分かるだろ。……ほら」
リヴァイさんの睨みで私は顔が青くなる。
そしてリヴァイさんに突然渡された物に慌てて受け取れば、それは緑色のマント。

「お前は今日から調査兵団の新兵だ。行くぞ」
リヴァイさんがそう言えば馬の方へと向かう。
私は渡された緑色のマントを見ながら微笑んで、マントを着る。

"今日から調査兵団の新兵"
その言葉になんだかすごく嬉しかった。


私の愛馬の"へいちょう"は大人しく待っていてくれた。
「待たせてごめんね、へいちょう」
私は愛馬の名前を誰にも聞こえないように小さな声で呟いてへいちょうに乗った。
へいちょうは尻尾を軽く振って「大丈夫」という感じに私には見えた。

「よし、行くぞ」
リヴァイさんの声でみんな動き出した。


森の中に入れば先頭にエレンとオルオさん。
その後ろにペトラさんとリヴァイさんと私。
最後尾にエルドさんとグンタさんがいる。

「旧調査兵団本部…古城を改装した施設とあって趣きとやらは一人前だが、こんなに壁や川から離れた本部なんてのは調査兵団には無用の長物だった。まだ志だけは高かった結成当初の話だ。しかし、このでかいお飾りがお前を囲っておくのに最適な場所になるとはな…」
オルオさんが喋っている。
その声は私達のいる場所まで聞こえる。
エレンは辺りを見回していた。
するとリヴァイさんと目が合ったのか慌てて前を向いた。

「調子に乗るなよ、新兵!」
オルオさんが馬に乗ったままエレンに近付く。
「はい!」
エレンの背中が驚いたように見える。
「巨人かなんだか知らんが、お前のような小便くさいガキにリヴァイ兵長が付きっ切り…っ!!」
オルオさんの声が途中で途切れたと思えば両手で口を押さえていた。

きっと馬に乗ったまま喋ったから舌を噛んだのだろう。
それにしてもすごく痛そうだった。

オルオさんはそれっきり旧調査兵団本部に着くまで何も喋らなかった。


そして無事に旧調査兵団本部に到着した。
今日からここで7人で生活することになるんだなと思った。

私はエレンの横に並んで愛馬のへいちょうを撫でる。
「エレン、お疲れ様」
「あぁ…」
エレンは微笑んでくれた。

すると近くにいるペトラさんとオルオさんの会話が聞こえてきた。

「乗馬中ペラペラ喋ってれば舌も噛むよ」
ペトラさんはため息混じりで言った。
「最初が肝心だ。あの新兵ビビってやがったぜ」
「オルオがあまりに間抜けだからびっくりしたんだと思うよ?」
「何にせよ俺の思惑通りだな」
オルオさんは3年前より顔が変わった気がする。
なんだろう、表情の作り方?

「ねぇ…昔はそんな喋り方じゃなかったよね?…もし、仮にもしそれがリヴァイ兵長の真似してるつもりなら本当にやめてくれない?…いや全く共通点とか感じられないけど」
ペトラさんは思いっきり引いている。
「ふんっ…俺を束縛するつもりか、ペトラ…。俺の女房を気取るにはまだ必要な手順をこなしてないぜ?」
「…舌を噛み切って死ねば良かったのに。巨人の討伐数とかペラペラ自慢しちゃって」
「安心しろ。お前らの自慢もしといてやったから」
「全く、みっともない!」

「まぁまぁ2人共、落ち着いて下さいよ!」
私は2人の会話を聞いていられず2人の間に入る。
「おっなまえじゃねぇか。お前も一応新兵なんだ、覚悟しておけ」
「……本当にその喋り方やめてくれない?」
私はオルオさんを見ながら苦笑いをした。
そしてまたペトラさんとオルオさんの言い争いが始まった。


私は旧調査兵団本部を見る。
「今から掃除なんだろうな…」
私の独り言は風のように消えた。




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