審議の結論
審議場はざわついていた。
ミカサも私も人間じゃないのではないかと指をさされ、私はただその場で震えていた。
「待って下さい!…俺は化け物かもしれませんが、こいつらは関係ありません!無関係です!」
エレンの突然の叫びに私は驚いて顔をあげた。
「信用できるかっ!」
「事実です!」
「庇うってことはやっぱり仲間だ!」
「違うー!!」
エレンの叫びと手を拘束された鎖がガチャンと大きな音を立てた。
その音に驚いて周りが怯えたように静かになった。
「…いや、違います。しかし、そちらも自分達の憶測でばかりで話を進めようとしている…」
「なんだと?」
怯えた表情でエレンを見ながら言う。
「大体あなた方は巨人を見たことないくせに何が怖いんですか?……力を持っている人が戦わなくてどうするんですか?生きるために戦うのが怖いっていうなら力を貸して下さいよ!この…腰抜け共め!……いいから黙って俺に投資しろーーーっ!!」
エレンの叫びにみんな驚いて固まってしまった。
私もエレンを見つめた。
「構えろっ!」
憲兵団師団長の声で隣にいた兵士が銃をエレンへと向けた。
その時だ、リヴァイさんが柵を跨いでエレンの傍に行ったかと思えばエレンの頬を蹴り上げた。
その蹴り上げでエレンの歯が飛んだのが見えた。
その後腹を蹴り上げてエレンの胸ぐらを掴む。
そして膝で顔蹴り、見るにも辛く私は目を逸らした。
目を逸らした時、ミカサが見えた。
ミカサは怒りで震えていた。
そしてリヴァイさんを止めようと思ったのかそちらへ向かおうとする。
それをアルミンがミカサの腕を引っ張って止める。
「待って!ミカサ!」
ミカサはアルミンの行動に驚いたようだがエレン達の方を見る。
エレンはもう顔も血塗れで青アザも見えていて見るも無惨だった。
リヴァイさんはエレンの頭を片足で踏み付けた。
「これは自論だが、躾に1番効くのは痛みだと思う。今、お前に必要なのは言葉による教育ではなく教訓。しゃがんでいるからちょうど蹴りやすいしな」
そしてリヴァイさんはまたエレンを思いっきり蹴り始めた。
それを周りのみんなは黙って見ていた。
私も唇を噛み締めて目を逸らさずにリヴァイさんを見た。
「待て、リヴァイ!」
ついに憲兵団の師団長が声をかけた。
リヴァイさんはエレンの顔面に足を置いたまま憲兵団の師団長を見る。
「なんだ…」
そしてエレンの顔面から足を下げる。
「危険だ。恨みをかってそいつが巨人化したらどうする?」
「何言っている」
その一言を言えばそのまままたエレンを蹴る。
それも容赦なくだ。
リヴァイさんはエレンの髪の毛を掴む。
「お前ら、こいつを解剖するんだろ?」
「………っ」
憲兵団の師団長は何も言えないのかただリヴァイさんを見ていた。
そして髪の毛を離してリヴァイさんはエレンを見下しながら言う。
「こいつは巨人化したとき力尽きるまでに20体の巨人を殺したらしい。敵だとすれば知恵がある分厄介かもしれない。だとしても俺の敵じゃないがな。だが、お前らはどうする?こいつを虐めた奴も考えた方がいい。本当にこいつを殺せるのか…」
「総統!ご提案があります!」
真っ直ぐ手を挙げたのはエルヴィン団長だ。
「なんだ…」
「エレンの巨人の力は不確定な要素が多分に含んでおり、危険は常に潜んでいます。そこでエレンの管理をリヴァイ兵士長に任せ、その上で被害調査に出ます」
「エレンを伴ってか?」
ザックレー総統が問う。
「はい。エレンが巨人の力を制御出来れば人類にとって利がある存在かと…。その調査の結果で判断していただきたい」
「エレン・イェーガーの管理か…。出来るのか、リヴァイ!」
ザックレー総統はリヴァイさんへと視線を向ける。
「殺すことに関しては間違いなく、問題はむしろその中間がないことにある」
リヴァイさんがこちらへと視線を向けた。
ミカサはまだリヴァイさんのことをすごい目で睨んでいるし、アルミンはミカサの腕を離さないようにギュッと力を入れていた。
私はただリヴァイさんとエレンを見つめた。
「ふむ、結論は出た」
ザックレー総統はそう言った。
そして、長いようで短かった審議が終わった。
もちろん結論はエルヴィン団長が提案した案が通り、調査兵団がエレンの身柄を確保することができた。
ミカサはまだリヴァイさんに怒っているのか審議が終わってからもずっと睨み続けていた。
「ミカサ、なまえ帰ろうか」
アルミンに声を掛けられて頷いて帰ろうとした時だった。
「おい、なまえ。お前はこっちだ」
名前を呼ばれて振り返ればリヴァイさんがこちらを見ていた。
私は驚いた顔をしてリヴァイさんを見る。
ミカサは今にも殴りかかりそうな勢いでアルミンが必死に止めている。
「なまえ、こっちは大丈夫だから。行っておいで!」
アルミンに言われて私は頷いた。
「ごめんね、じゃちょっと行ってくる」
私はそのままリヴァイさんの所へ行った。
リヴァイさんは何も言わないで歩き出したため疑問に思いながら付いて行った。
そこは審議場にある控え室のような場所でそこにリヴァイさんは足を踏み入れた。
私も続いて入れば、そこにはエレンがソファーに座っていた。
「エレン!!」
「なまえ!?」
エレンは私を見て驚いた声をあげた。
「なんでなまえがここに?」
「えっと…リヴァイさんに呼ばれて付いてきたんだけど…」
リヴァイさんをチラリと見ると何も言わずに壁に背中を預けて腕を組んでいた。
「それより、怪我大丈夫?」
「あぁ、これくらい大丈夫だ」
その時ドアが開いてエルヴィン団長とハンジさんとミケさんが入ってきた。
「あれ?なまえちゃんじゃないか!」
救急箱を持ったハンジさんが驚いた声をあげた。
「えっと皆さんこんにちは…」
私はこの場にいていいのかと疑問に思いながら挨拶をした。
「久しぶりだな、なまえ!」
エルヴィン団長は笑って言ってくれた。
私も「はい!」と微笑んだ。
「全く酷いね…本当に。痛いだろ?」
ハンジさんはエレンの手当てを始めた。
「少し…」
「で、どんな風に痛い?」
「えっ?」
ハンジさんの言葉にエレンは驚いた顔をする。
手当てが終わったのかハンジさんはエレンから離れる。
「すまなかった。しかしおかげで我々に君を託して貰うことができた。…効果的なタイミングで用意してたカードが切れた。その痛みの甲斐あってのことだ」
エルヴィン団長はエレンの前にしゃがむ。
「君に敬意を…。これからもよろしくな、エレン」
エルヴィン団長はエレンに手を差し出した。
「よ、よろしくお願いします!」
エレンは驚いた顔をするもエルヴィン団長と握手を交わした。
そしてリヴァイさんが歩き出したと思ったらエレンの横にドカッと座った。
「ひっ!」
エレンはとても驚いた声を出した。
「なぁ、エレン!」
「は…はい!」
「俺を憎んでいるか?」
「い、いえ…。必要な演出として理解しています」
エレンは少し怯えてる気がした。
「なら、良かった」
「しかし限度があるでしょ?歯が折れちゃったんだよ?…ほら!」
ハンジさんがポケットからハンカチを出した。
そのハンカチの中からさっき折れたエレンの歯があった。
「拾うな、気持ち悪い」
リヴァイさんは吐き捨てるように言った。
「これだって大事なサンプルだし…」
「エレン、こういう奴に解剖されるよりマシだろ?」
エレンはハンカチに入っていた自分の歯をずっと見ていた。
「一緒にしないで欲しいなー、私はエレンを殺したりしない。……ねぇ、エレン!ちょっと口の中見せてみてよ!」
ハンジさんがそう言うと、エレンは口を大きく開いた。
「……!!」
ハンジさんはエレンの口を覗いて驚いた顔をする。
「もう…歯が生えてる…」
その言葉にその場にいた全員が驚いた顔をした。
それから全員で調査兵団の宿舎へと向かった。
今日1日エレンはリヴァイさんの部屋で過ごすらしい。明日からは場所を変えると聞いている。
確か私が覚えている通りなら旧調査兵団本部で過ごすことになるのだろう。
エルヴィン団長の部屋に呼ばれて私は部屋に向かう。
ノックをして部屋に入れば中にはペトラさん、オルオさん、グンタさん、エルドさんがいる。
もちろんリヴァイさんもいた。
「なまえちゃん!!」
ペトラさんが嬉しそうに微笑んだ。
「ペトラさん、お久しぶりです!」
私は嬉しくなりにっこり微笑んだ。
仲良くしてくれていたみんなが元気そうで本当に安心した。
「よし、全員揃ったな。……このメンバーが特別作戦班だ。そして、エレンの監視も兼ねている。エレンを守ってくれ」
エルヴィン団長の言葉に私は驚いた。
私もリヴァイ班に入ることができる。
嬉しかったけど不安だった。
まだ訓練兵を卒業したばかりなのに足手まといにならないだろうか。
上位10人の中にも入っていない。
首席のミカサの方が適任のような気もする。
「なまえは訓練兵を卒業したばかりだが、私達は期待している。訓練兵に入る1ヶ月前の頑張りは本当にすごかった。それになまえは訓練兵の時、エレン達とよく一緒にいたとも聞いている。君は適任だよ」
エルヴィン団長に心を見透かされたのかと思うほどの言葉に私は頷いた。
「ありがとうございます」
「明日から旧調査兵団本部を拠点として移動して貰う。準備を今日中に終えてくれ。…以上だ」
「はい!」
私達は返事をしてエルヴィン団長の部屋から出た。
「なまえちゃんが無事で本当良かった!明日から同じ班だからよろしくね」
ペトラさんが笑ってくれた。
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「なまえがどれくらい成長したか楽しみだな!」
「立体機動を初めてやった時は面白かったな」
「ちょっ、エルドさんオルオさんやめて下さい!そんなのすごい前なのに忘れちゃって下さいよ!」
5人で話しながら笑い合った。
私は本当に調査兵団の人達が好きだ。
訓練兵のみんなも好きだけど調査兵団のみんなは家族のような暖かさがあった。