優しい言葉



ジャンに連れられて歩きながらあの時に話したマルコの言葉を思い出した。

"なまえがいつも仲間のこと考えてることは知ってるよ。自分のことより仲間優先なことも。俺達は大丈夫だから!"

あのマルコの微笑みは忘れられなかった。
あの時やっぱり残っていればマルコのことを助けられたのかもしれない。
でもそれはストーリーを変えてしまうことになる。
仲間が死ぬくらいなら変えてしまえば良かったのかと後悔の言葉しか思いつかなくて涙も止まらなかった。

「ジャン、なまえ!」
同じ格好をしたアルミンとミカサがいた。
「なまえどうしたの?」
ジャンが私の手を離す。
「…マルコが巨人にやられていた」
ジャンは2人に言えば私の頭を撫でる。
「なまえのこと頼んだ」
ジャンはアルミンの肩をポンッと叩いてそのまま歩いて行った。
「ジャン!」
アルミンは呼び掛けたがジャンは行ってしまった。

「とりあえずちょっと休もうか、僕ちょっと話してくる!」
アルミンはそのまま先輩兵士の元へと向かった。

「なまえ…」
ミカサが私を抱き締めてくれた。
私はただその優しさに縋るように泣き続けた。



それから私はその日何をして過ごしたかあまり覚えていない。
ただ、アルミンとミカサに連れられて宿舎に戻ったことは覚えている。
気が付いた頃は陽が傾き始めていた。

「トントン」
部屋をノックする音が聞こえてドアが開いた。
「なまえ、大丈夫?なまえのこと呼んでくれって言う人がいるんだけど…」
クリスタがドアから顔を覗かせて言った。
「…うん、分かった。ありがとう」
私はベッドから立ち上がり、部屋を出る。

宿舎の前で腕を組んで壁にもたれかかるリヴァイさんがいた。
今日1日の作業が終わってから来たのか団服と緑のマントを身につけたままだった。

「…リヴァイ…さん…」
私は呟いた。
リヴァイさんは私に気が付いたのか私に視線を移して私の元に歩いてきた。
「………行くぞ」
リヴァイさんは一言言えば私の腕を掴んで歩きだした。
私はリヴァイさんの行動に驚きながらもリヴァイさんに着いて行く。

着いたのは私が3年前にいた場所。
調査兵団の宿舎だった。
宿舎に入ればリヴァイさんはそのまま真っ直ぐ自分の部屋へと入る。
隣は私の部屋だったはず。今は違う誰かが使っているのだろうか。
それを横目に見ながら腕は離して貰えず私も一緒にリヴァイさんの部屋に入った。

部屋に入ればソファーへと座らせられた。
リヴァイさんはマントと団服を脱いで畳んで置いた。
そしてこちらへと視線を向けて私の隣に座る。

「なまえ、何があった?泣いたのか?」
私の目をジッと見てリヴァイさんが言う。あれだけ泣いたのだから目は真っ赤なのだろう。
鏡を見てないからどれだけ赤いのかは分からない。

「………同じ、訓練兵の仲間が死にしました。…助けられた命なんです。……私があの時、一緒にいたら良かったんです。….私、知ってたんです。マルコが…死ぬこと…。それなのに、守れなかった。…私は何の為にこの世界に来たんですか?…みんなを守りたかった…。誰も死なせたくなかった……」
また涙が溢れた。

リヴァイさんは何も言わず私の話を聞いてくれた。
そして、私の腕を引っ張り引き寄せられた。
私の体はすっぽりとリヴァイさんの腕の中。

「やっぱり知ってたんだな…。俺がなまえの所に行った日、なまえが"壁外調査は絶対行かなきゃいけないんですか?"って聞いた言葉がずっと引っかかっていた。巨人が街に向かったって聞いてなまえは知ってたんじゃないかって思った。悪かった…。もっと早く気付けば良かった」
私はリヴァイさんの言葉を聞きながら必死で首を横に振った。

「…全て話してしまえばストーリーが変わっちゃう気がしました。…それはしてはいけない行為だとずっと思っていたんです。…でもいざ仲間の死を見てしまうと、後悔しかありません。…私が、私だけが守れた命だって…」
「いや、確かになまえなら守れた命かもしれねぇ。だけど、仲間を助けたことでなまえが死んだかもしれない。生きてて…良かった」
リヴァイさんはそう言えば私をきつく抱き締めてくれた。
私は驚いたけど、なんだかそれが心地良くて受け入れてしまった。

"生きてて良かった"
その言葉がとても胸に響いた。


しばらく私はリヴァイさんの腕の中で泣いた。
リヴァイさんは何も言わないでそのまま抱き締めていてくれた。


どれくらい時間が経ったのだろう。
夕陽だった空はもう真っ暗で部屋も暗かった。

「あっ、リヴァイさんすみません。…夜になっちゃいましたね」
私は落ち着いたためリヴァイさんから離れた。
リヴァイさんはソファーから立ち上がり電気を点けた。

暗かった場所からいきなり明かりが点いて目を細めた。

「今日は遅いから泊まっていけ」
リヴァイさんは紅茶を淹れながら言う。
「泊まって…?…………えっ?ここにですか!」
私は思わず声を出す。
「………ほぉ、俺と一緒に寝るのか?」
「……ね、寝ませんよ!!」
私は顔を赤くして首を激しく横に振る。

「お前の部屋があるだろ」
リヴァイさんは紅茶を淹れたカップを2つ持ってテーブルに置いてくれた。
「ありがとうございます…。……部屋って私が訓練兵になる前に使ってた部屋ですか?」
「そこしかないだろ…」
リヴァイさんは独特な持ち方で紅茶を飲む。

「あの部屋ってもう誰か使っているのかと思っていました」
私も一口紅茶を飲む。
「あそこはお前の部屋だ…」

私はその言葉にとても嬉しく感じた。
この世界にも私の居場所がある。
不思議な感じだけどすごく嬉しかった。


紅茶を飲み終わってから私は自分の部屋に入った。
3年間も使っていなかったのに埃が1つもなくて本当に綺麗な部屋だった。
きっとリヴァイさんのことだ。掃除をしてくれていたのだろう。

そのままベッドに入った。
話を聞いて貰ったからなのだろうか、私はすぐに眠ることができた。

それも全てリヴァイさんのおかげなのかもしれない。




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