待っていた人



私は溢れる涙が止められなかった。
リヴァイさんがだんだん涙で見えなくなる。

私は涙を拭うとリヴァイさんと目が合った。
リヴァイさんは少し驚いた顔をしてため息をした。
そして私達がいる場所へとやってきた。

「おい、これはどういうことだ?…まぁいい。今は壁へ上がれ!話はそれからだ!」
リヴァイさんはそう言うと先に壁の上へと飛んで行った。
私達も壁の上へと飛ぶ。アルミンはエレンを抱き上げて飛ぶ。

「エレン!!」
壁の上へとみんな着けばミカサはアルミンが一緒に連れてきたエレンの元へと行く。
「良かった….エレン」
ミカサは嬉しそうにただ呟いた。
私はその様子をミカサの後ろでただ見ていた。


「なまえ…」
私の後ろで私を呼ぶ声がした。
声で分かる。誰が私を呼ぶのか…。
振り向きたくても体が動かなかった。

「おい、なまえ」
もう1度呼ばれた。私はその声で振り返る。
リヴァイさんが私の後ろに立っていた。
「お前は1度で振り返れねぇのか?…怪我とかしてねぇか?」
リヴァイさんの声にまた涙が溢れそうになる。
「…大丈夫です。リヴァイさんこそ怪我してないですか?」
私は溢れそうな涙を堪えて微笑む。
リヴァイさんは1歩私に近付いた。
「…俺は怪我なんてしねぇよ。…無事で良かった」
そう言えばリヴァイさんは私の頭を撫でた。
私の目から涙が落ちた。
「…俺はエルヴィンの所に行ってくる。状況はあまり把握出来てねぇが、何となくは理解できる。後で話聞かせろ…」
リヴァイさんはまた私の頭を撫でてそのままエルヴィン団長がいるであろう場所へと向かって行った。


とりあえず今日は訓練兵の宿舎に帰ることになった。
エレンは憲兵団に連れて行かれた。
きっと拘束されるのだろう。
ミカサは最後まで反抗していたが無駄だった。
私はアルミンとミカサと一緒に宿舎へと戻った。

食堂では前よりも訓練兵の数が減った気がする。
そして静かな食堂だった。
私は辺りを見回す。
ジャンを見つけて声をかける。

「ジャン、お疲れ様!」
「あぁ、なまえか。お疲れ!」
「マルコ…見てないかな?」
「…マルコか?…そういえば見てねぇな。どこ行ったんだ?あいつ…」
私はその言葉を聞いて唇を噛み締めた。
「…そっか、ありがとう」
「マルコに用事か?何だったら俺が伝えとくぞ!」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
私は微笑んでお礼を言えばそのままミカサとアルミンの元へと向かった。

「なまえどうしたの?」
アルミンが首を傾げて聞く。
「マルコを探してたの」
「マルコ?そう言えばまだ見てないね」
「忙しいのかもしれないね」
私は微笑んで言えばパンとスープを受け取り席に座った。

私はストーリー通りに進まないことを祈った。
マルコが元気良く食堂の扉を開けるんじゃないかって思いながら扉が開くたびにそちらを見ていた。

結局マルコに会えないまま長かった1日が終わった。



次の日、被害の全貌が少しずつみえた。
扉を塞いでから急遽壁外調査から帰ってきた調査兵団と駐屯兵団後衛部によってウォール・ローゼは再び巨人の侵入を阻んだ。

そして今日は1日トロスト区に閉じ込めた巨人を壁上固定砲で倒す作業を丸1日やるらしい。
主にこの作業は駐屯兵団がやると聞いている。
壁上固定砲で倒せなかった巨人は調査兵団が掃討するという。

この戦いでの死者・行方不明者207人。負傷者897人。
初めて人類が巨人に勝ったが歓喜するにはあまりに失った人数が多すぎた。



今日1日私達は亡くなった人達の名前を確認したり運んだりする作業をやることになった。
辛くて悲しい作業だ。

口元を守るように三角巾で縛る。まるでマスクだ。
そして手袋をして街を歩く。
辺りを見回せば血塗れの人やもう顔も分からない人が大勢いた。
私は顔を歪ませながら運んだりした。

団服に名前とか書いていれば身元くらい分かるのになっとふと思ってしまった。
それは日本であった戦争を思い返す。
私は戦争を体験していた身ではないが、確か身元が分かるように名前を付けていた気がする。

ここに来て日本のことを思い出す自分に少しため息をして辺りを見回した。
すると立ち止まるジャンを見つける。

「ジャン?どうした…」
ジャンの傍に行けばジャンの視線の先には昨日まで普通に会話をしていたマルコの亡骸だった。

「……嘘」
私はその場に座り込んでしまった。

「訓練兵!彼の名前が分かるのか?」
私の後ろから私達と同じ格好をしたボードを持った女の人が声を掛けてきた。

「でも…こいつに限ってありえねぇ…。マルコ…何があった…?誰か…こいつの最後を見た奴は…」
ジャンは呟いている。
「彼の名前は?….知ってたら答えろ!…このまま遺体を置いていたら伝染病が蔓延する恐れがある。二次災害は阻止しなくてはならない。仲間の死を嘆く時間はまだないんだよ。…分かったか?」
最後の「分かったか?」の部分は私に向かって言っていた気がした。

「…第104期訓練兵団所属…19班班長…マルコ・ポット…」
ジャンは途切れながらも答えた。
「マルコか…。名前が分かって良かった。作業を続けよう…」
女の人はボードに名前を書き込めばそのまま歩いて行ってしまった。


やっぱりあの時、私はマルコと一緒にいるべきだったんだ。助けられた命だったかもしれない。
これじゃ私がここにいる意味がない。
「マルコ…ごめんね…。守れなくて、ごめんなさい」
私は泣きながら呟いた。

「なまえ…行くぞ…」
ジャンが私の手を引っ張って立たせてくれた。
私の涙は止まらない。
ジャンの方が悲しいはずなのに…。

私はジャンに手を引かれてその場を離れた。





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