赤い煙弾



夕陽に変わり始めた頃、私達は違う人と囮になるのを交代したため壁の上にいた。

アルミンも交代したのか私の傍でガスボンベの点検をしていた。
私も同じように点検をしていたがふと、後ろを振り返ってエレン達がいる位置を見つめた。

するとその位置から赤い煙弾があがった。
「赤い…煙弾…」
私は小さな声で呟いた。

赤い煙弾は深刻な問題が発生したという合図。
近くではピクシス司令達が赤い煙を見ながら話している様子が見えた。


すると近くで赤い煙弾に気が付いた人がいるのか声があがった。
「おい!あれ見てみろよ!」
「なんだ?どうした?」
アルミンも気が付いたのか振り返って赤い煙弾を見る。
「えっ…?」

「失敗…したのか?」
近くにいたマルコが言った。
「どうして……くっ…」
アルミンは悔しそうな顔をして持っていたガスボンベを置いて走り出した。

「おい、アルミン!どこへ行くんだ!って、なまえ!」
マルコの叫び声が聞こえた。
「アルミン!」
私もアルミンの後を追うように走った。

「アルミン、待って!」
私はアルミンの腕を掴んだ。
「はぁはぁ…なまえ…」
アルミンは私を見て不思議そうな顔をする。
「エレンは…はぁはぁ…」
私は息を整える。
「エレンの今の意識は寝てると思うの。だからアルミン、起こしてあげて…。一緒にエレンの所に行きたいけど…仲間を守らなきゃいけない…。あとで合流するから…。それまでエレンのことよろしく」
私は微笑んで言った。
「えっ!….なまえどういうこと?」
「今はそんなこといいからエレンの所に急いで!」
私はアルミンの背中を押した。
「…わかった。なまえ死なないでよ。…いなくなったら困るんだから」
私はその言葉を聞いて微笑む。
「大丈夫、私は死なないよ!アルミンも死なないでよね!」
それを聞いてアルミンは頷いてまたエレン達がいる方向へと走り出した。

私はアルミンの背中を見ながら見送った。


私は訓練兵のみんながいる場所へと戻った。
「なまえ!」
マルコが私を見つけてこっちに呼ぶ。
傍にはコニーがいた。
2人の傍に行けばちょうど囮になっていたジャンが交代になったのか立体機動でこちらへやってきた。

「エレンのやつ、何があったんだ?」
合流するや否やジャンは周りの様子に気が付いていたのか聞いてきた。
「アルミンが向かったから大丈夫だよ!」
私は微笑んで言う。
「エレンならやってくれるさ!」
マルコが頷いて言ってくれた。
「巨人を街の隅に集めるなんて無駄としか思えねぇよ」
コニーが愚痴を零す。
「巨人相手の戦闘は必ず消耗戦になる。今の段階で兵の損失は避けたいんだろ?」
ジャンが言うとコニーが振り返って少し歩いて立ち止まる。
「今の段階で亡くなる兵は無駄死にってことか?」
「いずれ総力戦になる。その時まで兵を温存しておくために犠牲を最小限にするのは当然だ!上は正しい!」
ジャンが真剣な眼差しで言う。
「そういうもんかねー」
コニーが溜め息まじりで言う。
「そういうもんだ!」
「まぁ損失にならないようにしようぜ。お互いに!」
コニーがこちらを振り返って苦笑いをしていた。

確かにそうだ。こんな所で死ぬ訳には行かない。
そしてそれから少し経てば私達は街に散らばっている巨人達を引き寄せる仕事になった。
囮より危ない仕事だ。


「いいか!とにかく巨人を街の隅から離れさせないことだ。それだけに集中して十分に引きつけろ!…分かるな?お前達が交戦する必要はない。訓練生は4人1組になり地上を走る。壁際まで来たら上に飛べ。命は落とすな。万が一漏れた巨人は我々が倒す」
先輩兵士が私達に言う。
「万が一?10か1くらいの確率じゃないのか?」
ジャンが呟く。
「我々が危険を感じた場合は自己判断で動いても構いませんか?」
アニが先輩兵士に聞く。
「それでどうにかなるならな」

その時「ドンッ」という大きな音がした。
「…キルシュタイン班行けーーっ!!」
先輩兵士の声でジャン、アニ、コニー、私の4人は立体機動で飛んだ。

走って巨人を隅までおびき寄せて飛ぶ。
そんなことを繰り返していた。

ジャン、アニ、コニー、私で必死に走る。
後ろには3体の巨人が追いかけてきている。
「うわぁぁぁぁぁっ」
その時叫び声が聞こえて、そちらの方へ振り返れば私達に指示を出してくれた先輩兵士が巨人に食べられるのが見えた。

「あっ…あのままじゃ…」
私は先輩兵士を助けようと飛ぶ体制に入った。
「なまえ、ダメだ。遠すぎる間に合う訳ない!とりあえず走れ!」
ジャンに止められて私は唇を噛んでジャンの言葉に従ってそのまま走る。
「嫌でも自己判断で動くしかないね」
アニが走りながら言う。

コニーの後ろにいた巨人がコニーを捕まえようと手を伸ばす。
「うわっ!」
なんとか避けて、急いでアンカーを刺そうとしたが壁に弾かれる。
「あれっ?」

「コニー!」
私とアニは先に壁の上に登ったためその様子が見えた。
このままだとコニーが危ないと思った。

その時、巨人の手にアンカーが刺さる。
「ジャン!」
ジャンのアンカーだ。
「早く行けっ!」
ジャンがコニーに向かって叫んだ。

ジャンは私達の方向とは反対方向に走り出した。
巨人はコニーからジャンへと標的を変えた。

コニーはその隙に私達の所へ来た。
「ジャン!」
コニーとアニと私でジャンを探す。

巨人に追いかけられて必死に走り続けているジャンを見つけた。
「どうしたんだ?なんで立体機動装置を使わねぇんだ?…まさか…」
コニーが叫ぶ。
「……故障だ」
私は呟いた。その言葉にコニーとアニが私を見る。

そうだった。確かジャンの立体機動装置が故障して使えなくなったんだ。
また忘れかけていた。手遅れの状況でいつも私は思い出してしまう。

「助けなきゃ…」
私はまた呟いた。
…でも確かジャンは死んでなかった。どうやって助かったんだったけ?
…思い出せない。
「あぁー!もうっ…」
私はその場でうずくまった。

「おい、なまえどうしたんだよ?」
コニーが心配そうにしゃがんで声を掛けてくれる。
「………マルコが危ない」
私は思い出した。
この戦いでマルコが死ぬことを。
「なまえ、何を言ってるんだよ?」
コニーが苦笑いをして言う。
アニはそんな私を不可解な目で見ていた。

私はアニの様子を知らなかった。
今は仲間を助けることを考えることで必死だった。




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