トロスト区奪還作戦



やりますと言ったエレンの顔を何故かとても輝いて見えた。
アニメなんかよりずっと…。

「ふむっ。よう言ったの!主は男じゃ!」
ピクシス司令はエレンの肩に両手を置いて言った。
立ち上がり歩いて端まで行けば片手を挙げた。
「参謀を呼ぼう!作戦を立てようぞ!」

そんなピクシス司令を見てアルミンは驚いた顔をする。
「えっ?そんな…。いくら何でも皮算用ですらない思い付きなのに、いきなり実用するなんて…」
「俺もそう思ったが、でもその判断を訝って意味がない。ピクシス司令は今の俺達が見えないものを見ようとしているんだろう」
「見えないもの…」
私は小さく呟いた。
「それに、多分作戦を実行する依然に根本的な問題がある。司令はその現状を正しく認識している」
「つまり…」
アルミンがエレンを見て言う。
「敵は…巨人だけじゃない」
「えっ?」
エレンの言葉にアルミンは驚いた顔をした。

「時は一刻を争う…」
ピクシス司令の声に振り返り、私達はピクシス司令の方を向いた。
「活躍してもらうぞ!若き兵士達よ…」


エレンとピクシス司令は2人で話すのか歩いて行ってしまった。
それを目線で少し追えば私はアルミンとミカサ、そしてピクシス司令が連れてきた2人と話し合いを始めた。
私の記憶が正しければリヴァイさんが来てくれるのは大穴を塞いだ時。
全てが終わった頃に調査兵団が帰ってくる。
それじゃ遅いんだ。…早く帰ってきて。
私は遠くの空を見ていた。

「なまえ?大丈夫?」
隣にいたミカサに声を掛けられてハッとする。
「あっごめん。ちょっと考え事してた」
私は苦笑いをする。


「ちゅうもぉぉぉぉく!」
すると近くでピクシス司令の大きな声がした。
私は少し驚いてそちらを向く。
ピクシス司令の隣にはエレンがいる。
今からピクシス司令の説明が始まるんだなと思った。
「これより、トロスト区奪還作戦について説明する!」

私はピクシス司令の方から視線をアルミン達の方へと移す。

「巨人と戦う必要がない?」
「す、すみません。一貫の訓練兵が口を挟んでしまって…」
「いや、構わん!話を続けてくれ」
アルミンはピクシス司令が連れて来た2人に説明を始めていた。

「巨人は通常、より多数の人間に反応して迫って来るのでそれを利用して大勢でおびき寄せて壁際に集めることが出来れば、大部分は巨人と接触せずにエレンから遠ざけることが出来ると思います。またおびき寄せた巨人達は後で大砲を利用して損害を出さずに倒せます。ただし、エレンを無防備にする訳にはいかないので少数精鋭の班で彼を守るべきだと思います。それに、穴から入ってくる巨人との戦闘も避けられません。そこは精鋭班の技量にかかっています」
アルミンは丁寧に説明している。
「よし、分かった。そこを踏まえて練り直そう」

「ただこの作戦はエレンが確実に岩を運んで穴を塞ぐことが前提です。その確証が乏しいまま作戦を決行するにはやはり疑問を感じるのですが…」
アルミンは視線を2人に移す。
「確かに根幹の部分が不確かなまま大勢を死地に向かわせることに何も感じない、訳ではないがピクシス司令の考えも理解できる」
「えぇ、1つは時間の問題ね。今現在も巨人が街に入り続けてる。街に巨人が充満する程、奪還作戦の成功率は絶望的になるわ」
「それに加えてウォール・ローゼが突破される確率も高くなっていくな」

「それともう1つ…」
その声に視線が集まった。
「…人が恐怖を原動力にして進むには限界があるわ…」


確かに限界がある。みんな怖いんだ。巨人の恐怖を知ってしまったから。
私も訓練しかしてない。巨人に会ったのは今日が初めてだ。
今まで模型型の巨人でしかやってきてない。初めて巨人を見たとき一瞬たじろいでしまった。
死と隣り合わせ。調査兵団のみんなはいつもこんな気持ちでやっているのかな。



ピクシス司令の話も終わり、みんなトロスト区奪還作戦の準備を始めていた。

「エレン、すまない。結局エレンに全ての責任を負わせることになった」
アルミンが申し訳なさそうにエレンに言った。
「さっき言っただろ?お前には正解に導く力があるって…。俺はそれを信じるよ!」
エレンが微笑んでアルミンに言った。

「エレン、やはり私も…」
「ついてくるなんて言うなよ!お前は囮部隊に配属されたんだろ?」
「でも、エレンを1人にはできない。1人になったらまた…」
「いい加減にしろっ!俺はお前の弟でも子供でもねぇ!そう言ったはずだ!」
「………」
ミカサはそのまま下を向いてしまった。
「ミカサ…。エレンもちょっと言い過ぎだよ」
私はミカサを背中を撫でてからエレンを見る。
「俺は…」
「アッカーマン!」
突然声が聞こえてみんなそちらへと視線を移す。

「お前もイェーガーを守る精鋭班に入れ!お前の腕が必要だ!行くぞっ、作戦開始だ!」
その言葉にミカサは嬉しそうに微笑んだ。
私も同じように微笑んで撫でていたミカサの背中を強めに叩いた。
「ミカサ!エレンのこと頼んだよっ!」
ミカサは私に頷いてくれた。
「じゃあな…アルミン、なまえ。死ぬなよ…」
エレンが小声で言った。
「うん、エレンも…」
アルミンが答えた。

そしてエレンとミカサ、アルミンと私と別々の方向へと走って行った。



私とアルミンは囮部隊に配属された。
きっとエレンもミカサもアルミンも必死だ。
みんなトロストクを奪還するために頑張っている。
私も頑張らなきゃ。

アンカーを引っ掛けて壁に足をつきながら下にいる巨人をおびき寄せる。
隣にいるアルミンと目が合い、頷き合った。

そして精鋭部隊が作戦を実行する緑の煙弾があがったのが見えた。




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