見事な敬礼



まだ煙で何も見えない視界を私は見つめていた。
「ガチャッ」
という大きな音と何かが落ちる音が聞こえた。
きっとアルミンが立体機動装置を落とした音。

「ひっ…止まれっ!」
煙の奥から怯えたような声が聞こえた。

「ついに招待を現したな、化け物め!送るぞ、私は合図を送る!」
「彼は人類の敵ではありません!私達には知り得た情報を全て開示する意思があります!」
「命乞いに貸す耳はない!目の前で正体を現しておいて今更何を言う!奴が敵ではないというのなら証拠を出せ!それが出来ないならば危険を排除するまでだ!」
「証拠は必要ありません!そもそも我々が彼をどう認識するかは問題ではないのです!」
「何だと?」
「大勢の者が彼を見たと聞きました!ならば彼が巨人と戦う姿を見たはずです。周囲の巨人が彼に群がっていく姿も。つまり巨人は、彼のことを我々人類と同じように捕食対象として認識しました!我々がいくら知恵を絞ろうともこの事実だけは動きません!」

アルミンの声が聞こえる。
セリフまでは覚えてないがアニメで見た場面と同じような声が聞こえてふと安心する。

「確かに…そうだ」
「巨人が味方?」
「そんな馬鹿な…」
周りからいろんな声が聞こえた。

「…くっ、….迎撃態勢を取れ!奴らの巧妙な罠に騙されるな!」
「なっ…!」
「奴らの行動は常に我々の理解を超える。人間に化け、人間の言葉を弄し、我々を欺くこと可能という訳だ!これ以上奴らの好きにさせてはならない!」
その言葉を言った瞬間、駐屯兵団の全員が私達に剣を向けて、銃を向けていた。

私達を囲んでいた煙が晴れる。
アルミンが切羽詰まったような表情でこちらを振り返った。
エレンが頷いた。
私も微笑んで「大丈夫だよ」と小さな声で呟く。

アルミンは唇を噛み締めてまた前を向いて心臓を捧げる敬礼のポーズを取る。
「私は永遠に人類の復興のためなら心臓を捧げると誓った兵士!その信念に従った末に命が果てるなら本望!彼の持つ巨人の力と残存する兵力が組み合わさればこの街の奪還も不可能ではありません!人類の栄光を願い、これから死に行くせめてもの間に!彼の戦術価値を説きます!」

少し静かになった。
私はアルミンの言葉に泣き出しそうになった。
アルミンの背中を見ながら涙を堪える。

「ヴェールマン隊長、彼の言葉は考察に値すると…」
「黙れーーーーっ!」
すると砲弾命令をするように右手を挙げだす。
それがとてもスローモーションに見える。

ミカサは剣を構えている。
エレンはまた巨人になろうとしている。
私は拳を握り締めることしかできなかった。

「よさんか…。相変わらず図体の割には子鹿のように繊細な男だ…」
「ピクシス司令!」
上官の腕を掴んだのはピクシス司令だった。

「お前にはあの者の見事な敬礼が見えんのか?…今着いた所だが状況は早馬のように伝わっている。お前は増援の指揮に就け。わしはあの者らの話を聞いた方がいい気がするのぉ…」
それを聞いたアルミンは敬礼をやめるとその場に崩れるように座り込んだ。
私はアルミンがいる所へ行き、「ありがとう」と素直に伝えた。
アルミンも安心したように微笑んでくれた。


そしてピクシス司令に着いて行くように私達は壁の上に登った。
そこから眺める景色は綺麗なのかもしれない。でも全然綺麗に見えてこない。

…リヴァイさん、今どこにいますか?
こっちに向かっていますか?
早くみんなを助けに来て…。


「…やはり見当たらんか。超絶美女の巨人になら食われてもいいんだがなぁ」
ピクシス司令は下にいる巨人を見ながら言う。
本当にこの人はそんなこと思っているのだろうか。
ピクシス司令は確か変態ってアニメでは言ってた気がするけどやっぱり変態なのかな…?

「それで説明してくれんかのぅ?」
ピクシス司令はこちらへと視線を移した。
エレンはピクシス司令に地下室のことを話した。
「そうか。その地下室へ行けば全て分かると…」
「はい…。信じてもらえますか?」
エレンは不安そうにピクシス司令を見る。

「お主自身が確証を得らん以上はとりあえず頭に入れておくといったところかのぅ。しかし物事の真意を見極める程度のことは出来るつもりじゃ。お主らの命はわしが保証しよう」
その言葉を聞いてエレンとアルミンは安心したように肩が下がった。

「アルレルト訓練兵…じゃったかのぅ?」
「はっ!」
アルミンが敬礼をする。
「お主は先程、巨人の力とやらを使えばこの街の奪還も可能だと申したな。あれは本当にそう思ったのか?それとも苦し紛れの命乞いか?」
「それは….両方です。あの時僕が言おうとしたのは巨人になったエレンがあの大岩を運んで、破壊された扉を塞ぐということでした。ただ、単純に思いついただけですが…。せめてエレンの持つ力に現状を打開できる可能性を感じてもらえないかと…」
みんながアルミンを見つめていた。
「うん…」
ピクシス司令はそのまま後ろを振り返り街を見つめる。
「…もちろん、助かりたい一心でしたが」
「助かりたい一心…何より信用できる言葉だ」
ピクシス司令はポケットから飲み物を取り出して飲む。中身は酒なのだろうか?

そしてそのままこちらへ振り返り、歩いてきてエレンの座る前にしゃがみ込む。
「どうじゃ、イェーガー訓練兵よ!」
「はい!」
「お主は穴を塞ぐことが出来るか?」
「えっ?」
みんなでピクシス司令を見る。
「それは、そのどうでしょうか?今の自分に分かることなんてここにいるみんなとそう変わりがありません。なので自分がここで出来るにしろ出来ないにしろ無責任に答える訳には…」
「おぉ、そうじゃのぅ。質問が悪かった。…お主はやるのかやらんのかどっちだ?」
ピクシス司令の言葉に驚いた顔をする。そして後ろへと視線を向けた。
そして視線をピクシス司令へと移した。

「…くっ。…やります。穴を塞げるかどうかは分かりません。でも…やります!」
エレンの決意は固いようで真っ直ぐ前を見ていた。




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