2つの考え



「あっ…」
アルミンは驚いたような顔をして声をあげた。
ミカサは剣を握り締めていた。
私は見たことがあるその光景にただ上を見ることしか出来なかった。

上から骨のようなものが降ってくる。
「い、生きているぞ!」
「ヴェールマン隊長!!」
「うあっ…様子を見ろ!近付くのは危険すぎる!各自警戒態勢のままで待機!待機だ!砲衛達に一弾装填させろ!」
遠くから声が聞こえた。



「砲声が聞こえたところまでは覚えてる…。その後は凄まじい音と衝撃と熱。今、僕達は巨大な骨格の…」
「エレンが私達を守った…。今はそれだけ理解出来ればいい」
アルミンは混乱している様子だったがミカサはとても落ち着いていた。

「おい!大丈夫か、お前ら!」
エレンがこちらにやってきた。
「エレン、これは?」
「分からん。だが、こいつはもう蒸発する。巨人の死体と同じだ。少し離れるぞ!」
エレンは先に巨人から離れる。
私もそれに続いてエレンを追い掛ける。
「ただ様子を窺ってんのか、放心してんのか、今のところ駐屯兵団に動きはみられないが、最終的に攻撃を続行するだろう」
アルミンとミカサも巨人から離れてこちらに来る。
「そうだろうね。攻撃は続行すると思うよ。こんな大きな巨人を見た後だもん…」
私はエレンの背中を見ながら呟く。エレンはこちらを振り返り頷く。
「俺はこんな大きな巨人を見せた後で会話する自信は俺にはない。ただ、1つだけ思い出した!地下室だ!」
エレンが首に掛けていた鍵を取り出す。
「俺ん家の地下室…。そこに行けば全てが分かるって親父が言っていた。俺がこうなっちまった原因も親父だ。地下室に行けば巨人の正体も恐らく分かるんだ!…くそっ!だとしたらなんで隠した!その情報は何千人もの調査兵団の命を落としても求め続けた、人類の希望ってやつじゃないのか!」
エレンが蒸発をする巨人の骨を悔しそうに殴った。
「それを俺ん家の地下室に大事に閉まっていたというのか!何考えてんだ、一体…」

「うん?」
ミカサは何かに気が付いたようでそちらを向く。
「そもそも俺達を5年もほっといてどこで…」
「エレン!」
ミカサがエレンの肩を引っ張る。
「今は他にすべきことがある」
「あぁ…」
エレンは頷いて、私達はその場から動いた。


周りが少し騒がしくなっている気がする。
私達はしゃがみ込んで話す。
「俺はここを離れる…」
「えっ?」
エレンの言葉にミカサとアルミンが驚いた顔をした。私は冷静にエレンを見つめる。
「どこに?どうやって?」
アルミンが聞く。
「とりあえずどこでもいい。そこから壁を越えて地下室を目指す。もう一度巨人になってからな…」
「そんなこと出来るの?」
「自分でもどうやっているのか分からん。でも出来るって思うんだ。どうやって自分の腕を動かしているのか、説明出来ないようにな。さっきは無意識に砲弾を防ぐことだけを考えた。だからそれ以上の機能も持続力もなく朽ちたんだ。はぁはぁはぁ…。今度はもっと強力なやつを…。さっき巨人共を蹴散らしたような15メートル級になってやる!」
「エレン!鼻血が…」
ミカサが声を掛ければエレンは鼻血を手で拭い、驚いた顔をする。

「顔色も悪いよ、それに呼吸まで乱れてる。エレン、そんな状態じゃ巨人になんてなれないよ!」
私は首を横に振って言う。
「今は体調不良なんてどうでもいい!俺に考えが2つある。俺を庇ったりなんかしなければお前らの命まで奪われない。もう既に迷惑かけちまったが俺はここから単独で動こうと思う」
エレンの言葉にアルミンが驚いた顔をする。
「えっ?そんな、僕は…」
「エレン!私も行く!」
アルミンの言葉を遮ってミカサの言う。
「ダメだ!」
「私が追いつけなければ私に構う必要はない。ただし私が従う必要もない!」
「いい加減にしろって言ってんだ!俺はお前の弟でも子供でもないぞ!」

私達の前で言い争うエレンとミカサを見ながら私は視線をアルミンへと移す。
アルミンは何か思い詰めたような顔をしている。
私は何も言えなかった。
ここは私が出る幕ではない。

「エレン、私は…」
「待てよ、ミカサ。考えは2つあるって言っただろ?」
エレンが言えばミカサからアルミンへと視線を移した。
「アルミン、後はお前の判断に任せる!」
「えっ?」
アルミンは驚いた顔をしてエレンを見る。
「俺だって今の話が現実性を欠いてることは分かっている。この巨人の力は兵団の元で計画的に機能させるのが一番有効なはずなんだ。無茶を言うがアルミンがもしここで俺は脅威じゃないって駐屯兵団に説得出来ると言うなら俺はお前を信じてそれに従う。これが2つ目の考えだ。お前が出来ないって言うならさっきの最終手段に出る!15秒以内に決めてくれ!出来るか出来ないか…俺はどっちでもお前の意見を尊重する」

「エレン…どうして僕にそんな決断を託すの?」
「お前ってヤバいってとき程どの行動が正解か当てることができただろ?それに頼りたいって思ったからだ…」
「…いつそんなことが?」
「いろいろあっただろ。5年前なんかお前がハンネスさんを呼んでくれなきゃ俺もミカサも巨人に食われて死んでいた」
「あっ…」
その瞬間後ろの巨人の骨がアルミンの後ろに落ちた。

アルミンは泣き出しそうな顔でエレンとミカサを見つめる。
「アルミン、時間がない…」
エレンがアルミンを見て言う。

「アルミン…私は訓練兵になってから仲良くして貰ってる。だけど、私もアルミンのこと信じてる。アルミンは必ず成功できるよ」
私は微笑んでアルミンの背中を撫でた。
アルミンは私の顔を見て驚いた顔をしたが、すぐに真剣な顔になり頷いた。

アルミンは立ち上がった。
「必ず成功してみせる。3人は極力抵抗の意思がないことを示してくれ」
「うん」
エレンとミカサが頷いて言う。
私も頷いて言った。

そのままアルミンは私達に背を向けて駐屯兵がいる方向へと歩いて行った。

大丈夫、絶対成功する!
ここまではちゃんとストーリー通りに進んでる。
私は両手をギュッと握って成功を祈った。




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