初陣前



私達は本部に辿り着くとみんなバタバタと走り回っていた。
「お前達、訓練兵も卒業演習を合格した立派な兵士だ!本作戦でも活躍を期待する!」
上官の声が響いていた。

エレンと私はガスを入れようとしていたアルミンを見つけて傍に行く。
アルミンは手を震わせていた。
「大丈夫か!アルミン!」
エレンがアルミンの横にしゃがみ込む。
私もアルミンの横にしゃがむ。
「だ、大丈夫だっ!こんなの…すぐに収まる」
それでもアルミンは手を震わせながらガスを注入しようとしている。
「アルミン…」
私はアルミンを見ながら震える理由がよく分かる。みんなきっと同じだと思う。
ふと足音が聞こえて私は後ろを振り向くとミカサがいた。

「し、しかしまずいぞ。現状ではまだ縦8メートルの穴を塞ぐ技術はない。前門付近にあるあの大岩だって結局掘り返すことだって、出来なかった。穴を塞げない時点でこの街は放棄される!」
アルミンはガスを注入しようと必死だが中々はまらない。

「…ウォールローゼが突破されるのも時間の問題だ!そもそも奴らはその気になれば人類なんかいつでも滅ぼすことが出来るんだ!」
私はアルミンの震える手を掴んだ。
「アルミン!!落ち着いて!」
「…っ!」

エレンがアルミンの肩に手を置く。
「…あの時とは違う。人類はもう巨人なんかに負けない!」
「ご…ごめん…。…もう大丈夫」
アルミンは震える声でそう答えた。
「大丈夫…私達は負けないから。…何があっても惑わせれないで。絶対大丈夫だから」
私は微笑んでアルミンの手を離して立ち上がる。

「私は先に行ってる…」
そう言いエレンとアルミンの元から離れてミカサを見てから微笑んでその場を後にした。



「それでは訓練通り各班に分かれて駐屯兵団の指揮の元、補給支援・情報伝達・巨人の掃討などをおこなってもらう!前衛部を駐屯兵団の迎撃班。中衛を支援班率いる訓練兵団。後衛を駐屯兵団率いる精鋭班が受け持つ。また伝令によると、先遣団は全滅したとの事だ!」
私達は全滅と言う言葉に息をのんだ。
私は唇を噛み締める。
「外門が突破され巨人の侵入を許した!つまりいつまた鎧の巨人が現れて内門を破ってもおかしくはない状況にある!」

「…嘘だろ?」
「そんな…」
「ローゼまで破られることになったら…」
周りが騒ついて口々に色んな声が聞こえる。

「静粛に!現在は前衛で迎撃中だ。本防衛作戦の目的は一つ!住民の避難が完了するまで、ウォール・ローゼを死守することである。なお、承知しているであろうが、敵前逃亡は死罪に値する!皆心して命を捧げよ!!解散!!」
「はっ!」
みんなが左胸に拳を当てて敬礼のポーズをする。

その後バタバタと走って移動をする。
その場に蹲っている者もいる。
いろんな人がいた。
1つ言えることはみんな戸惑っているってことだ。

「何で今日なんだよ…。明日から内地に行けたっつーのに…」
私の近くでその場に座り込むジャンが言った。
ジャンの傍では堪え切れず吐いている人もいる。
「大丈夫?」クリスタが背中をさすっている。

ジャンはそのまま座り込む人達の横を通り早歩きで行ってしまう。
そんなジャンがエレンとぶつかるのが見えた。

「死に急ぎ野郎がっ!」
ジャンの声が聞こえ、そして胸ぐらを掴んで言い合いをする様子が見えた。私は急いで2人の元へ向かった。

何となく話している内容は分かる。
前からはちょうどミカサもやってきた。

「違う!…思い出せ!俺たちが血反吐を吐いた3年間を!3年間俺達は何度も死にかけた。実際に死んだ奴もいる。逃げ出した奴や追い出された奴も。…でも俺達は生き残った。そうだろ!…今日だってきっと生き残れる。今日生き残って明日内地に行くんだろ!」
エレンはジャンの胸ぐらを離した。
エレンの言葉に私は2人をただ見つめるしかなかった。ミカサも多分同じだったと思う。

「…くそっ…行くぞ、ダズ!いつまでも泣いてるんじゃねぇ!」
ジャンはそのまま友人を連れて去った。

「エレン!戦闘が混乱したら私の所に来て?」
ミカサがエレンに近寄ってそう言った。
私も2人の元に駆け寄る。
「はぁ?俺とお前は別々の班だろ?」
「混乱した状況化では筋書き通りにいかない。私は貴方を守る!」
「お前は何を言って…」
「…ミカサ」
私は呟いた。

「アッカーマン訓練兵!お前は特別に後衛部隊だ。ついて来い!」
上官がミカサを見て言う。
「わ…私の腕では足手まといになります」
エレンと私はミカサを見る。

「お前の判断を聞いているのではない!避難が遅れている今、住民の近くに1人でも多くの精鋭が必要だ!」
そのまま上官は歩いて行ってしまう。
「し、しかし…!」
「おいっ!」
エレンがミカサの頭に頭突きをする。
「…っ」

「いい加減にしろ、ミカサ!お前までモタついてるんじゃねぇ!人類滅亡の危機だぞ?何てめぇの勝手な都合を押し付けてるんだっ!」
私は2人を見ていることしか出来なかった。
私が入ることじゃない。

「…悪かった。私は冷静じゃなかった…。…1つだけ頼みがある…」
ミカサはエレンと私の袖を掴んだ。
私はその行動に驚いた。
思わずミカサをジッと見る。

「どうか…死なないで…」
ミカサの言葉に私は泣き出しそうになった。
でもこんな所で泣いてる場合じゃない。
私は唇をまた噛み締めた。

エレンはミカサの手を振り払ってそのまま行ってしまう。

「ミカサ…大丈夫だよ。…私もエレンとは違う班だけど出来る限り守るから…。だからミカサも後衛部隊、よろしくね!」
私は微笑んでミカサの手をギュッと握ってエレンが歩いて行った方へ追い掛けるように走って向かった。


「エレン!…ちょっとミカサに冷たいんじゃない?」
私はエレンに追いつくとそう言う。
「はぁ?そんなことねぇよ。…ただあいつは俺のことばっかりで自分のこと何も考えねぇ…」
「…それほどミカサにとってエレンは大事なんだよ。…頑張ろうね!それからエレン。この戦い…たくさんの人が亡くなる。だからいつでも冷静でいてね…」
私はそれだけ言うとエレンを追い越して自分の班がいる場所へと急いだ。

エレンが今から食べられることは分かってる。…そして巨人になることも…。
そして、みんなが1人でも助かるように私は仲間を守る。




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