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Usual Days




―いつもの日常に些細な出来事。

そのふとした瞬間に、自分に向けられる感情を知る。







カタカタとキーボードを叩く音が静かな空間に響く。長時間画面を見ていたせいで痛む頭を軽く押さえつつ、黙々と仕事を続ける。

「あー、もう限界や!!」

ガタと机を揺らして向い側にいたユーズさんが立ち上がる。そのせいで積んであったロムの山が音を立てて崩れた。

「…あ」

「…ユーズさん」

―ちょっと何してくれてるんですか?
そんな意味を込めた非難めいた視線を送ると、ユーズさんはバツが悪そうに頷いて床に散乱したロムを拾い上げ、床に適当に積み上げた。
そのまま仕事に戻るのかと思っていた私の考えを裏切って、ふらふらとした足取りで窓際に向かっていく。

「ユーズさん、仕事―」

「あー…ちょっと休憩や、きゅーけー」

慌てて遠ざかっていく背中に呼び掛けた私の声にひらひらと手を振って応えて。
そのままカラカラと窓を開ける音と火を点ける音がして、ジッポのオイルの匂いと煙草の匂いが風に運ばれてくる。それに呆れ混じりに大きくため息をついてみせた。

「…ユーズさん、煙草は止めたんじゃなかったんですか?」

「は?…あ、あぁ、そうや、今は禁煙中やからな。今から吸うんはレモン味のパイポや!煙草やないで」

ちらりと画面からユーズさんのいる窓際の方を見ると、無意識に火を点けていたらしい煙草を慌てて携帯用灰皿に押しつけている姿が見えた。
その姿に小さくため息を零して、画面に再度向かおうとしたところで、不意に声を掛けられる。

「お、ケイナ。下にお前の王子様が来てんで」

「は?」

何のことですかと聞くよりも早く、ユーズさんに手招きされる。不精不精立ち上がり、窓から下を覗くと何やら重そうな袋を両手に持ったジルチの姿があった。

「…ジルチ」

ぽつりと小さく名前を零すと、道を歩いていたジルチがぱっと顔を上げる。聞こえるはずの無い声に反応されて戸惑っていた私に気付く事無く、ジルチはぶんぶんと手を振って笑った。

「ケイナー!!今から飯作りにいくから、ちょっと待ってろよーッ!!」

「ジルチっ!声が大き…」

「近所迷惑やで、ジルチー」

下から叫んでいるジルチを止めるには随分適当すぎる声が隣から聞こえる。その声が聞こえているのか否か、ジルチがまた声を張り上げた。

「あ、ユーズ!後から識も来るってよー!!」

「ホンマ?なら、はよ仕事終わらせんとな」

あっさりとその言葉で仕事に戻ったのを見て、ため息を吐きたくなる。やる気が戻ったなら良いかと考えていた私に下から声が掛けられた。

「ケイナーッ!!すぐそっち行くからな!!」

まっすぐに私を見て嬉しそうに笑うその顔に、近所迷惑だとか、もっと静かにしろとか言いたいことはあった筈なのに言葉が出てこなくて。
ただ嬉しそうなジルチに軽く頷いて、窓を閉める。
溜め息混じりに視線を外から部屋の中に戻すと、悪戯っぽく笑ってこっちを見ているユーズさんと目が合った。

「愛されまくりやなぁ、ケイナ」

「…っ、馬鹿なこと言ってないで、早く仕事を終わらせて下さい」

羞恥で僅かに赤くなった顔を背けて、持ち場に戻る。画面に向かい合い、仕事を再開しようとした所でドアをノックする音が聞こえた。

「えらい早いな…。入ってえぇで!」

掛けられた言葉に反応して、ドアが開く音がする。

この後またすぐに騒がしくなるだろうことを予想して、溜め息を吐きたくなったけれど。

溜め息を吐くより先に、自然と笑みが零れていた。



END



ツンデレケイナが好きです。何だろう、すごくユーズに愛を感じる(笑)