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言ノ葉




 そよそよと頬を撫でていく風が心地良い。開け放たれた窓から吹き込んでくる風に頬を緩ませながら、ワユは上機嫌にグレイル傭兵団の拠点である砦の中を歩いていく。
  いつもは防犯の意味も込めて、砦内の窓は閉じられている事が多いのだが、今日はいくつかの窓は開け放たれているようだ。おそらく、ミスト辺りが締め切ったままでは身体に悪いと開けていってくれたのだろう。時折吹き込んでくる風が心地よく、ワユは目を細めた。

「涼しい〜…」

 訓練が終わったばかりで、熱の籠もった身体には心地良い涼しさだ。このまま窓際で少し涼んでいこうかとも思ったが、訓練で汗を流してきたせいか、喉が乾いて仕方ない。涼むのは、喉を潤してからでも遅くはないだろう。ワユはそう自身に呟くと、水の一杯でも飲もうと食堂へと足を向けた。



 食堂へと着いたワユの視界に映ったのは、誰もいないガランとした空間だった。いつも食堂にいるオスカーやよく暇つぶしにたむろしているガトリーの姿も見えない。皆、今日は仕事だっただろうか。そんな事をぼんやり考えながら水場へと向かおうとした所で、ワユはふと机に伏している見慣れたあたたかな夕陽色を見つけた。

「…キルロイさん?」

 ワユは確かめるようにその名前を口にすると、テーブルの上に突っ伏しているキルロイにそっと声を掛ける。具合が悪いのだろうかと不安に思いつつ近づくと、規則正しい呼吸音が微かにワユの耳に響く。

「寝て…る…?」

 食堂でキルロイが居眠りする所など、ワユは見たことがなかった。珍しいと心の中で呟いて、ワユはそっとキルロイの向かいの席に腰を下ろす。
  座る時に僅かに椅子が軋む音が鳴り、ワユは起こしてしまっただろうかと、びくりと身体を強張らせる。しかし、目の前のキルロイが目を覚ます様子はない。それを確認すると、ワユはほっと息を吐いて未だ夢の中にいるキルロイをじっと見つめた。

 外から降り注ぐ陽の光はあたたかい。その陽の光に照らされて、キルロイのオレンジ色の髪が柔らかく光る。それがまるで太陽のように見えて、ワユは目を細めた。

 あったかい。やさしい、光。

 それはまるでキルロイのやさしさそのものの色のように思えて、ワユは頬を緩ませた。いつも傭兵団みんなの事を想い、案じ、そして癒してくれる。その姿は最初頼りなく思えたのに、今では随分と心強く思うことが多くなった。
   待っていてくれる人がいるということ、守りたいと思える人がいるということ。
   それもまた「強さ」に変わるのだと、それらはキルロイに会ってから知ったことだった。

 やさしい人。…そして、あたしの運命の人。

 そっと言葉に出さずに呟いて、ワユはやさしい夕陽色を見つめる。規則正しい呼吸音とそよそよと風に靡く木の葉の音だけがワユの耳に響く。
  それは酷く優しくて、ワユはぎゅっと胸が締め付けられるような気分になる。こういう気持ち、何ていうんだっけ。そんなことをワユが考えていると、不意に自身の口から言葉が零れていた。

「…すき」

 …あぁ、そうだ。宿命のライバルとか、運命の人とか。そんな言葉よりももっと簡単で、でもなかなか伝えられない言葉。

「キルロイさん、好きだよ」

 未だ夢の中にいるキルロイにそう微笑みかけると、ワユはそっとキルロイの夕陽色に手を伸ばす。遠慮がちに触れたワユの指先に伝わったのは、柔らかくあたたかな感触だ。それはまるでキルロイそのもののようで、ワユはあたたかな気持ちが胸に溢れるのを感じた。

   キルロイさんが起きたら伝えよう。あたしはキルロイさんのこと、大好きだよって。
 
  そんな事を考えながら、ワユはゆっくりとキルロイの髪を撫でる。夕陽色の髪に隠れたキルロイの耳の端が、実は真っ赤に染まっていた事を、ワユはまだ知らない。



end.



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シャンミク!様よりリクエスト頂きましたキルワユでした。
何気ない瞬間に、改めて気持ちに気付いたりしたら良いなーっていうのと、ワユさんはそれを素直に言葉に出来そうで素敵だなと想いを込めてみました。

随分とお待たせしてしまいましたが、シャンミク!様に捧げます。
リクエスト、ありがとうございました!


2012.6.5