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無軌道運命理論




人を自身に深く立ち入れさせないような、どこか冷めたような眼をした貴方を放っておけなくて。


話し掛けたきっかけは、ただそれだけのことだったのに。



気付けば貴方の存在で、心がいっぱいになっていた。









「…それでっすね!すっげぇ可愛い子に会っちゃったんですよ〜!」

「ふーん…」

夜も更けてきた酒場で、シノンさんと俺──二人肩を並べてグラスを傾ける。
隣で俺の話を興味なさげに冷めた様子で聞くシノンさんの姿に淋しさを覚えたけれど。
いつものことかと思い直して小さく笑みを溢す。

「お前は女の話ばっかだよな」

懲りないな、と薄く笑うその顔にどくんと大きく胸が弾む。
お酒を飲んでるせいか、いつもよりも潤んだ瞳とうっすらと赤く染まった頬。
動きに合わせて揺れる深紅の髪に、思わず触れたくなる衝動に駆られて、ぎゅっと拳を握り締める。

「……シノンさんは美人ですよね」

「…お前、酔ってんのか?」

シノンさんの呆れたような眼差しと声に真っ直ぐ見つめ返せば、僅かにシノンさんが動揺するのが分かって。
戸惑いがちに揺れる視線に誘われるように、そっと机の上に置かれたままになっていた手を握り締める。
ビク、とシノンさんの身体が強ばるのを掌越しに感じたけれど、放すことはしたくなくて。ぎゅっと手を握り締めたまま真っ直ぐ見つめると、そんな俺の視線から逃れるように、さっと視線を逸らされる。
その視線を追い掛けるように、視線を合わせようと顔を近付けて覗き込めば。
すぐ近くに潤んだ瞳と、酒で僅かに濡れた唇があって。

思わずごくりと唾を飲み込んだ所で、思いきり頭をはたかれ、手を振り払われる。

「痛っ」

「いい加減にしやがれ」

俺は女じゃねぇ、と低く呟く声に、はたかれた頭をさすりながらへらりと笑えば、シノンさんの眉間に寄せられた皺がますます深まって。
はぁ、と大きくため息を零される。

「……お前、馬鹿か?」

「馬鹿じゃないっすよー」

酷いなぁ、と笑えばシノンさんはやっぱり呆れたようにため息を吐いて。
そして、ふわりと笑って頭をがしがしと乱暴に撫でられた。

その笑顔にまた収まりかけていた心音が早く高く鳴っていくのを感じながら、ちらりとシノンさんの様子を探る。
シノンさんはこちらを気にした風もなく、グラスを傾けていて。
ごくりと酒を飲む動作に合わせて動く喉を見つめながら、心の中で小さく呟く。


──やっぱり、シノンさんは美人だよな。


今までドキドキした女の子は、それは数えきれないほどいるけれど。
こんなに焦がれる程の想いを抱いたのは初めてだった。
その柔らかな髪を梳いて、手を握り締めて、唇を塞いでしまいたい、だなんて。


「ガトリー?どうかしたか?」

「……何でもないっす」


訝しげに見つめる瞳に、へらと笑い返すと、グラスの中の酒を一気に飲み込んだ。
今はまだ、一緒に酒を交わす相手に過ぎないのかも知れない。


それでも、貴方の隣にいれることをただ幸せだと思う。……幸せだと、そう思うのに。


焦がれる想いが焼け付くように胸を急かして、苦しくて堪らなくなる。
いつか、この想いを伝えて貴方をこの腕に抱けたら良いのに。


──…そんなことを考えて。新たに注がれたシノンさんの髪に似た赤い雫を、ぐっと飲み干した。




end.




緋色様との相互記念に書かせて頂きましたガトシノです。
話は……予想通りというか何というか甘さ控えめビター味になってますね。
甘々がどうしても書けない体質らしいです←←
大人な雰囲気の話を…!と思ったんです…が…orz
何となくそんな雰囲気を感じて頂ければ、幸いです。

リクエスト下さった緋色様のみお持ち帰り可です。
ここまで乱文にお付き合い下さり、ありがとうございました!