LOVE WILLその手が空いているなら、手を繋ぎたいし。 その口に触れられるなら、そっと塞いでいたい。 ──だから、ねぇ。 ねぇ、シノンさん─… 行き交う人の波を掻き分けながら、じっと前を歩く後ろ姿を見つめる。 手には袋いっぱいの食料。抱き抱えるように抱えたそれは、見た目よりは軽く、まだ荷物を持つ余裕はあった。 「ねぇ、シノンさん」 前を歩いていく後ろ姿に呼び掛けると、ちらりと視線をこちらに向けて。僕がちゃんと後をついてきているのを確認すると、そのまま前を向いて止まらずに歩いていく。 「どうかしたか?」 「えっと、ね。僕、まだ荷物持てるから、何か持とうか?」 そんなにいっぱい大変でしょ、と後ろ姿に呼び掛けると、呆れたような大きなため息が聞こえてきて。 シノンさんは相変わらず前を向いたまま、返事だけが返ってくる。 「変な気ぃ使ってんじゃねぇよ。お前はそれだけちゃんと持っとけ」 「…うん」 何となく予想していたままの返事に、気付かれないように小さくため息を零す。 前を行くシノンさんの手には僕の倍以上の荷物があって。見るからに重そうな瓶がいっぱい入った袋や小麦粉の入った袋なんかで、片手を空けることすら難しそうな状態だ。 ─…せっかく二人きりでの買い物なのに。 手を繋げたら、なんて希望は叶いそうにもない願いで。 行き交う人が多くて、隣を歩くことすら出来ない。 先程から穴が開くほど見ている後ろ姿は、時折振り返ってくれる位で、まともに話すら出来ていなかった。 ─…それを淋しいと感じてるのは、自分だけなんだろうと思ったら。 気付かないうちに、またため息が零れていた。 「疲れたのか?」 不意に掛けられた言葉に俯いていた顔を上げると、じっと僕を見つめる紅の瞳にぶつかって。 真っ直ぐに僕を捉えるその瞳に、どくんと大きく胸が鳴って。 思わず足を止めてしまっていた。 「何だ?そんなに疲れてんのか?」 「えっと、ね…」 何て答えようって迷う気持ちよりも、もっと一緒にいたいって気持ちが頭を占めていて。 ワガママはダメだって我慢するよりも早く、心のままに先に口が動いていた。 「ほら」 「あ、ありがとう」 差し出されたカップを受け取って、小さく頭を下げる。渡されたカップからは甘い果物の香りがして。 わざわざ僕の為に買ってきてくれたんだと思ったら、自然に笑みが零れていた。 「…ったく。少し休んだら、すぐ行くからな」 さっさと飲めと釘を指すように言ったシノンさんの言葉に曖昧に頷く。 カップを傾けながら、シノンさんの様子を伺えば、荷物は既に地面に下ろしていて。ぼんやりと街の様子を眺めていた。 「……手」 「あ?何か言ったか?」 「な、なんでもないよっ」 思わず零れてしまった言葉を誤魔化すように、慌てて笑ってみせると、シノンさんは少しだけ眉をひそめて。またすぐに視線を街へと戻してしまった。 それをこっそりと目で追いながら、だらりと下ろされた手にじっと視線を向けた。 ──…今なら。 邪魔をしていた荷物はない。だから、今なら─…。 「…シノンさん」 「ンだよ?」 「手、繋いでいい?」 そう呟くように言って、じっとシノンさんの瞳を見つめる。断られるかもって怖さで思わずカップを握る指先に力が込もるのを感じながら、シノンさんの言葉を待つ。 ─…ねぇ、お願い。 一言で良いから、僕のワガママを許して。 「…好きにしろよ」 フイと視線を逸らして、ぶっきらぼうにそう呟くのが聞こえて。 次の瞬間には笑顔が零れていた。 「ありがとう!」 満面の笑みでそう言って、下ろされた手のひらにそっと指を絡める。 僕の手より、ほんの少しだけ冷たいシノンさんの手は心地よくて。 どきどきと高鳴る心音を聞きながら、握り締めた手にきゅっと力を込めた。 「シノンさんはやさしいよね」 上機嫌のまま、そう笑いかけた僕に深々とシノンさんがため息をつく。 怒ってるかな、なんて気になって、そっと表情を伺えば、不機嫌そうな顔がそこにあって。 ─…あぁ、やっぱり怒ってるって落ち込みそうになったところで、ほんの少しだけ、頬が赤く染まっていることに気付いて、思わず笑みが零れた。 「シノンさん、大好きだよ」 溢れてくる笑みと大好きの気持ちを伝えたくて、繋いだ手にそっと口付ければ。 分かりやすいくらい顔が真っ赤に染まって。 シノンさんは、それを慌てて隠すようにそっぽを向いてしまう。 その仕草にとくんとくんと胸が鼓動を早めて。 赤く染まった可愛い可愛いほっぺたに小さく口付けを落とした。 end. 8778hitにて緋色様よりリクエスト頂きましたヨファシノでした。 甘い感じで書きたいなーと思ってたのに、やっぱりほのぼのに落ち着きましたorz 一回砂糖吐く位甘いのとか書いてみたいですねー。…って毎回言ってるな、これ(笑) 二人で買い出ししてたりとかあったら良いなぁとは思います。 可愛いじゃないか…!てか、二人で並んで歩いてるだけでも可愛いです←末期 えー…相変わらずの乱筆乱文失礼しました。 緋色様、リクエスト有り難うございました!そして、長らくお待たせしてしまいまして、本当にすみませんでした!!;; 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 それでは、お付き合い頂きまして有り難うございました! |