with you…貴方がいるってこと──それはつまり、幸せってこと。 シューとお湯の沸く音がして、目の前の鍋を火から下ろす。 そのまま茶葉の入ったポットにお湯を注げば、湯気とともにふわりと茶葉のやわらかな香りが広がった。 あたたかなポットを手に取って、零さないように気を付けながら、足早に台所を後にした。 向かった先は、薄暗い灯りで照らされた居間の隅にある机。 そこに近づくにつれ、徐々に見えてきた人影に自然と笑みが零れていた。 「シノンさんっ」 名前を呼んで、シノンさんの座っている席の横へとそっと腰を下ろす。小さな蝋燭に照らされたシノンさんの姿はいつもと違って見えて。 炎に照らされて赤々と光る瞳に、唇に、どきりと心臓が跳ねた。 「…?どうかしたか?」 「な、何でもないよ!」 慌てて視線をぱっとポットにやると、まだドキドキとうるさい心臓に落ち着けと言い聞かせる。 そして、何でもない顔を装って、ポットからカップへと綺麗な琥珀色になった紅茶を注いでいく。 「良いか?その一杯だけだからな」 「うん、分かってるよ」 釘を刺すように言ったシノンさんの言葉に笑って頷いてみせると、シノンさんは小さく溜息を零した。 ──紅茶一杯分の約束。 その約束を思い出しながら、まだ熱い紅茶にふっと息を吹き掛けた。 ──約束を交わしたのは、ほんの少し前のこと。 なかなか寝付けなくて、水の一杯でも飲もうかと台所に向かっていた時の事だった。 食堂に小さな灯りを見つけて。その光に照らされて、見知った──大好きな人の後ろ姿が見えた気がして。 こっそりと近づいていくと、気配を感じたのかふと視線がぶつかる。 「…ヨファ、か?」 確かめるような声の調子に応えるように、足を進める。そして、お互いの顔がはっきりと見える位置まで来ると、驚いたような紅の瞳が僕を見つめていた。 「お前、何でこんな時間に…」 「何か寝付けなくて…」 確かにいつもならもうとっくに寝ている時間だ。 不思議に思うのも当然かと思い、そう返した僕をじっと見つめて、シノンさんは軽く溜息をついた。 「…ガキは寝る時間だ。さっさと寝ろ」 「シノンさんは寝ないの?」 もう遅い時間だよって小さく付け加えると、不機嫌そうに眉をしかめて、手にしたコップを僕の顔の高さまで持ち上げてみせた。 「俺は呑んでるから、まだ寝ないんだよ。分かったら、余計な心配してねぇで寝ろ」 そうとだけ言ってシノンさんは背を向けてしまって。けれど、いくら寝ろと言われても目が冴えているのは事実で。 それに、大好きな人と二人きりになれるチャンスをダメにしたくはなかったから。そっとシノンさんの隣に座った。 「……おい」 「ちょっとだけで良いから。シノンさんも1人で呑むの淋しいでしょ?」 だから、と上目遣いにシノンさんを見つめると深々と溜息をついて。 そして、小さな小さな声で一言呟くように言った。 「…紅茶一杯分だけ、付き合ってやる」 「ありがとう!」 その言葉ににっこりと笑うと、紅茶を沸かすべく台所に行ったのだった。 ─…そして。 「…何にやにやしてんだ?」 ふと思考に耽っていた僕の耳に訝しげにそう訪ねる声が聞こえてきて。 慌ててシノンさんの方を向いて笑ってみせた。 「ちょっと思い出してただけ。…シノンさんはやさしいなぁって」 「…けっ」 シノンさんは不機嫌そうな顔で何言ってんだかと零すと、手にしていたお酒をぐっと飲み込む。まるでそれが照れ隠しみたいに見えて。自然と頬が緩んでいた。 それに気付いたのか、シノンさんの眉間の皺がますます深くなって。半ばヤケのようにお酒を煽っていた。 「…ねぇ、それおいしいの?」 空になったコップに新たに注がれていく琥珀色を見つめながら、ふと湧いた疑問をそのまま口に乗せる。 「ガキにはまだ早ぇよ」 口元をにっと上げてシノンさんがコップを傾ける。 子ども扱いされたのが、何だか悔しくて。シノンさんがおいしいって思うものは僕にだって分かるんだって示したくて。 コップが口から離れるのを見計らって、そっと唇を重ねる。 「ん…っ!?」 びっくりしてか離れそうになる唇を追い掛けて、開いた口から舌を挿し入れる。 そのまま口内に残った雫を舐め取ると、じわりと口の中に苦みが広がった。 「…苦い」 唇を離して、そうぽつりと呟いた僕の頭をパンと良い音と共に叩かれる。 「痛っ!」 「何してんだ、テメェ!」 「何って……味見?」 どんな感じかなと思って、と勢い良く怒鳴られた言葉にそう笑って返すと、はぁと大きく溜息を吐かれた。 怒ってるかなって気になって、そっと顔を覗き込んでみたけれど。耳の先まで真っ赤に染まってるのが見えて。思わず笑みが零れた。 紅茶一杯分だって、シノンさんと過ごせる時間は、あったかくて優しい─…幸せの時間。 end. 8500hitにてカキヤマ様よりリクエスト頂きましたヨファシノでした。 というか。 リクエストはヨファシノ(ヨファ)だったはずなのに、めっちゃヨファシノで書いてしまいました;;お気に召さなかったら、ホントすいません…! ヨファシノは相変わらず大好きなカプの一つなので、書かせて頂けて嬉しかったです♪ カキヤマ様、リクエスト頂きまして、ありがとうございました! 一応、カキヤマ様のみお持ち帰りOKですので、煮るなり刻むなりお好きにして下さいませ。 それでは! ここまで乱文にお付き合い頂き、ありがとうございました! |