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safinia








この手は、ただ強くあるためだけにあれば良いって。
ずっとそう思ってた。


『剣の道に生きて、剣の道に死ぬ。』


─なーんて、ちょっとカッコ良すぎかもしれないけど、ずっとそういう生き方がしたいって思ってた。


剣技を磨けば磨くほど、やらなきゃいけないことがたくさんたくさん見えてきて。

それをクリアするたびに、確かな力がついていくのが楽しくて仕方なかった。

強くなりたい。

この剣一つでどこまで強くなっていけるのか試したい。

そんな気持ちがあたしの背中を押す原動力だった。

でも……。





「…さん。ワユさん?」


「へっ?」

ぼーっと考え事をしていたあたしの耳に飛び込んできた聞きなれたやさしい声と、繋いだ手に少しだけこめられた力に、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。慌てて声のした方に顔を向けると、不思議そうにあたしを見つめる穏やかな橙色の瞳があった。


「どうかした?」


「あ、いや、なんでもないよっ」


あはは、と笑って見せると、キルロイさんはますます不思議そうな顔をしていたけれど、それ以上は追求せずに、ふわりと優しく笑い返してくれた。

その優しい笑顔につられるように、またあたしも笑い返していた。



―…ねぇ、キルロイさん。

あたし、ずっとこの手は剣を握るためのものなんだって思ってた。

剣さえ握れれば、それで良いって。

でも、キルロイさんに会って変わったんだよ。



「少し、寒くなってきたね」


そう呟いて、キルロイさんは冷え始めたあたしの手を労わるように、ゆるく繋いでいた手をぎゅっと握りなおしてくれた。

その手が何だかあったかくて、嬉しくて。

思わず笑みが零れた。


「…こうしてると、あったかいね」


「…うん」



─…きっと今は、あたしの手は剣を握るために。


そして、大好きなあなたと手をつなぐためにあるんだよ。





end






【Safinia】
 花言葉:あなたがそばにいると心が和む