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starry sky




夜空の星は近いようで遠くって、手を伸ばせばすぐに届きそうに見えるのに、高くて遠くて。


捕まえようと伸ばした指は、夜空の闇を掴むばかり。














夜も随分更けた頃。相部屋の住人の寝息だけが、静まり返った部屋に満ちていて。

時計を見やれば、時計の針は、普段ならとっくに寝ている時間を指しているというのに。妙に冴えた頭は眠りにつくのを拒んでいるみたいだ。


「ヒマだなー…」


ため息まじりにそう小さく呟いて、ごろんと寝返りをうつ。

部屋の中の観察から、外へと視線を変えると、カーテンの隙間から夜空が見えて。何気なく見上げたはずのその光景に、一瞬で心奪われた。


「すごい…」


視線の先に僅かに覗く夜空には、零れ落ちそうなくらいのまばゆい星。こんなに綺麗な星空を見たのは、随分昔だったように思う。

その星空は寝転がって見ているだけじゃ勿体なくて。
ふと、浮かんだ考えに誘われるまま、そっと部屋を抜け出した。


「わーっ…!」


外に出た瞬間、降り注ぐように瞬く光の雫に思わず笑顔が零れる。
そのままぐるりと回れば、目に映る世界と一緒に、瞬く星たちも回った。


「すごいっ!キレー!」


吐き出した息は僅かに白く染まり、頬を撫でる風は心地よいとは言えない冷たさだったけれど。

わくわくと胸が騒いでる身体にはちょうど良いくらいだった。


「今日は届くかな…」


ふっと頭に浮かんできた言葉を口にして、頭上にある一番明るく輝く大きな星を見上げる。

きらきら輝くそれを手にしてみたくて、随分小さい頃に手を伸ばしてみたことがあったけれど。

伸ばした指は擦りもせず、空中で藻掻いただけだった。でも、あれだけ大きな星なら──…


「掴める、かな」


「何を?」


よし、と気合いを入れたところで、ふと聞こえてきた聞き慣れた声に慌てて振り向けば。

とっくに寝静まっているはずのオレンジの瞳が、不思議そうにこちらを見ていた。


「キルロイさん?!何でここに?」


「何だか眠れなくてね。散歩してたんだけど、ワユさんの姿が見えたから」


こんな時間だし、見間違いかと思ったんだけどと続けられ、苦笑する。

確かに、あたしがこんな時間に起きてることなんて殆どない。見間違いって思われても不思議じゃなかった。


「それより、何してたの?」


「んー…星、掴めないかなって」


「星を?」


不思議そうに聞き返された言葉に、空を仰いでいた視線を戻して、あたしを見つめるオレンジの瞳に笑いかけた。


「うん。…前ね、星を掴もうって手を伸ばしたことがあるんだけど、届かなかったんだ」


「そっか。星って目に見えるよりもずっと遠くにあるって言うからね」


不服そうにちょっと口をとがらせたあたしに、ふわりとやさしく笑って、そう返してくれたキルロイさんをじっと見つめる。

その視線を不思議に思ったのか、どうかしたのってやさしい目があたし問いかけていて。その瞳に、めいっぱい笑って見せた。


「ね!キルロイさんも一緒にやってみよ!」


「えぇ!?やるって何を…」


「星、つかめるかどうか!キルロイさんといっしょだったら出来るかも」


「そ、そうかなぁ…」


「だいじょぶ、だいじょぶ!」


そう言って、不安げなキルロイさんの手を取って、空に向かって両手を伸ばしてみる。

思いっきり手を伸ばしてみたけれど、やっぱり星は遠くって。

指先に感じたのは、空気の冷たさとつないだ手のあたたかさだけだった。


「んー…やっぱりダメかぁ」


「残念だったね」


「良いよ。また今度挑戦!」



──それに。

遠くの星は掴めなくても、この手には、あなたの手があるから。


あったかくて、やさしい手はあたしの冷えた指先をあたためてくれてるみたいで。

嬉しくて、ぎゅっと力を込めた。


「今度は、掴めるといいね」


「絶対だいじょぶだよ!」



──だって、キルロイさんと一緒なら。

何でも出来る気がするんだ。どこまでだって行けるし、今よりずっと強くなれる。


あの空だってきっと飛べるし、掴めそうにないあの星だって。

あなたと一緒なら、きっと掴める。


「今度はさ、流れ星を捕まえにいこっか」


「流れ星を?もっと難しそうだけど……」


「出来るよ!」


あなたとあたしなら。

──いつの日か、絶対に。




END






好きな人と一緒なら絶対大丈夫!っていう気持ちって可愛いなぁと思って書いたもの。
あの無敵感ってワユさんぽいなーと思います。