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One more lovely




貴方の特別でありたい、だなんて

ワガママ過ぎるかな?







ビュッと強く風が吹いて。膝に置いたままにしていた頼まれものがふわりと風に舞う。
慌てて手にしていた裁縫道具を置いて、取りに走ろうとしていた私を遮るように、横から歩いてきた影が地面に落ちてしまっていたそれを拾い上げた。

「ボーレ」

「おう、落ちたぞ…ってこれ俺のか?」

拾い上げたそれをまじまじと見ながらそう尋ねてきたボーレに、肯定の意味を込めて軽く頷いてみせる。
破れたところを縫ってほしいと渡されたそれはボーレが良く着ている上着で。
小さく空いていただけの穴は縫い合わせてしまえば、ほとんど目立たないほどになった。

「もう…。また破いたりしないでよ?あんまり大きく破かれたら直すの大変なんだから」

手にしていた裁縫道具をしまいながら、そう口をとがらせた私にボーレは子どもみたいに笑った。

「悪い悪い、今度は気を付けるって」

「それこの前の時も言ってた」

──そう。その前も同じ事を言って、破いたのを私のところに持ってきたのを思い出して、小さくため息を零した。

別に直すのは嫌いじゃないし、おかげで随分裁縫の腕前も上がったから良いんだけれど。それでも物には限度があるし、これ以上大きく破かれるようなことがあったら、買い直すことも考えないといけないのに。

「私だって何でも直せる訳じゃないんだから」

「分かってるって!」

ひらひらと手を振り、そう笑って上着を持っていってしまったボーレに、呼び止めて文句を言いたい気分に駆られたけれど。
結局は、ふぅと小さくため息を零しただけだった。


「おや」

「あ、オスカーさん」

不貞腐れた表情で裁縫道具を抱えていた私に、買い物帰りだろうか──布袋を抱えたオスカーさんがふわりと笑った。

「何か繕ってたのかい?」

「うん、ボーレの上着をね」

また破いたから、と苦笑まじりに言うと、オスカーさんは困ったように笑って小さく頭を下げた。

「すまないね、弟が迷惑をかけて」

「ううん、別に裁縫は嫌いじゃないから」

そう言って笑うと、オスカーさんもほっとしたような表情で笑ってくれた。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。…聞いてると思うんだけど、自分でも少しは直せるようにボーレに教えてはいるんだけれどね」

なかなか覚えてくれなくて、と笑うオスカーさんに曖昧に頷く。
そんな話ボーレから聞いたことなんてなかったし、自分でやろうとしていたなんて初耳だ。

──…私に頼むの嫌になったのかな。

ふとそんな考えが浮かんできて、ぎゅっと胸が締め付けられるように痛んだ。
そんな私を知ってか知らずかオスカーさんが穏やかに言葉を続ける。

「ミストに頼むから出来なくても良いって言って、全然覚えようとしないんだよ。何ていうかまるで…」

不意に言葉を濁すように黙ったオスカーさんに首を傾げると、耳元で小さく小さく囁かれた。

「どうしてもミストちゃんに直して欲しいみたいだ」

「!」

予期せぬ言葉にきょとんと目をしばたかせたけれど、何を言われたかが分かって。
次の瞬間、かぁっと顔が熱くなって、どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。
そんな私にふんわりと笑うとオスカーさんは手を振って行ってしまって。
残された私は、ただただ言われた言葉を頭の中で繰り返してた。


──ねぇ、ボーレ。
ボーレの服を直すのは私だけ…ってこと?


──…それは、私だけの特権だって思っても、良いんだよね?



そう心の中で呟いて、ぎゅっと愛用の裁縫道具を握り締めた。



end.



一万打企画にてリクエスト頂きましたボレミでした。
ボレミっていうか、ボレ←ミ色が強くなってしまいましたが;;
たまにはしおらしい感じのミストも可愛いかなと思って書いてました。
でも、ボーレに対してはやっぱりおしどり夫婦らしく?ちょっと強気でいて欲しいですねv…で。ボーレが知らないところでノロケたりしてたら可愛いなぁと。あれ?これ所謂ツンデレ?(笑)
リクエスト、ありがとうございました!