ネガイゴト例えば、あの闇夜を駆ける流れる光に願ったなら 綺麗なドレスを着て、優雅にステップを刻むような そんな昔読んだ絵本の中のお姫様に、私はなれるんだろうか? 今日も天気は生憎の雨だ。 暫く曇天の空しか見ていないことを思い出して、小さくため息を零す。 雨を嫌うようにブルリと身体を震わせた愛馬の背を宥めるように撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。 「飛びたいだろうが、もう暫くの我慢だ」 きっと明日には晴れる、と笑いかければ、分かっているといった様子で短く鳴いた。 ──風の流れが早いから、この雨雲も明日にはなくなっていることだろう。 そんなことを考えて、明日こそは思いきり空を飛ばせてやろうと考えていた私の耳に、すっと落ち着いた声が響いた。 「タニス殿、こんなところにいらしたんですね」 「オスカー、君か」 聞こえてきた声に振り返り、何か用かと目で促すと、ふんわりと微笑まれ、心臓がどくんと大きく音を立てた。 「姿が見えなかったもので…。ここは寒いでしょう?中でお茶でも如何ですか」 「君が煎れてくれるのか?」 恭しく頭を下げたオスカーにそう尋ねると、肯定の意を込めてか穏やかに微笑まれて。 一層高鳴る胸の鼓動に静まれと言い聞かせて、ぎこちなく頷いてみせた。 「はい、どうぞ」 コトリ、と小さな音を立てて目の前に置かれたカップを口元へと運ぶ。 まだ熱い位の琥珀色からは僅かに甘い香りと味がして。 何か特別なものを入れてあるのだと言うことは分かった。 「美味しいな」 「良かった。マスカットを入れてみたんですよ」 ふんわりと微笑んで話す姿にもう一度──今度はゆっくりと味わうように口に含む。 舌先に僅かに感じる甘味はオスカーの言う通り、マスカットの甘味そのもので。 香ってくる匂いも紅茶だけではなく、マスカットのやさしい甘い香りがして。 まるで、特別な日に飲むようなその紅茶にほっと吐息を零した。 「君はすごいな。まるでお茶会にでも出てきそうな紅茶だ」 そんな場所に行くことなど滅多にないのだけれど。 まるで、貴族が飲むような洒落たその紅茶に思わず感嘆してしまう。 「喜んで頂けたなら何よりです。…こう雨続きだと気分も暗くなりがちになるかと思ったものですから」 穏やかに微笑んで言われた言葉に、ますます感嘆の気持ちが込み上げてくる。 ──戦闘だけじゃない。 こういうささやかな心配りが出来るところは彼の美徳だと思う。 「君は、本当に素晴らしい騎士だな」 本心からそう感じ、微笑んでそう言った私に、オスカーは一瞬黙り込んで。 薄く笑うと、私の耳元で──私にだけ聞こえるような声で低く囁いた。 「こんなことをするのは、貴女にだけですよ」 その言葉は私がオスカーにとっては特別な存在なんだと──そう私に思わせるには十分過ぎるくらいのもので。 カッと羞恥で赤く染まった頬を隠すように俯いた私の頬に、やさしく撫でていくように口付けが落ちていった。 私は絵本のお姫さまのように、綺麗なドレスを着て、優雅にステップを踏むことなんて出来ないけれど。 でも、それでも構わない。 姫になんてなれなくても、私を守る──私と共にあってくれる騎士がいるから。 だから、もし闇夜を駆ける流れる光が見えたなら、こう願おう。 ──これからも共に、彼と歩んでいけますようにと。 end. 一万打企画にて、リクエスト頂きましたオスタニでした。 なかなか書かない二人なので─というか書く度安定してないのバレバレな感じですよね、ホントすいません;; タニスさんに対するオスカー兄さんはまるで執事さんのようというか紳士で、めっちゃときめきます。オスカー兄さんかっこえぇ!! そんな人間が書いたので、ちゃんとタニスさんが美人カッコいい感じに書けてるか不安です;; リクエスト、ありがとうございました! |