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Lovesick yourholic




見つめ合うだけで恋に落ちれるだなんて、なんて簡単。







いつも通り、気紛れに作った弓を行商人の女─ララベルと言ったか─に見せる。
売った金で何を買おうかと算段していた俺に、ララベルがにっこりと笑いかけてきた。

「いつも通り良い出来ね。これなら高値で買い取るわよ…って言いたいところなんだけど」

そうもいかないのよね、と他人事のように付け加えられた一言に、思わず眉根を寄せた。

「おい、どういうことだ?買い取れないってことか?」

「いえ、買い取りはするわよ。でも代金を支払えないのよ」

ちょうどお金がなくって、と大したことないように軽やかに笑ったララベルに、思わず机の上に無造作に置かれていた弓を手にして立ち上がる。
買い取るだけのお金がないなら、ここに留まる理由はない。

「あ、ちょっと待ってってば!お金はないんだけど、お金の代わりになるものはあるの」

それでどう、と聞かれて後ろを向きかけかけていた背中を元に戻して、椅子に座り直す。
手にしていた弓をまた机に置くと、さっとララベルが胸に抱え込んでしまった。

「…おい」

まだ代金の代わりをもらってないぞと目で訴えると、ぱちんと軽くウインクされる。
それに思いきりため息を吐いてみせると、トンと目の前に小綺麗な小ビンに入った桃色の液体を出された。

「…ンだよ、これ…?」

どうみたって怪しいソレに思いきり眉をひそめると、ララベルが上機嫌に笑って、すっと顔を近付けてきた。

「イイお薬よ。飲んでみて」

「イイって何だよ…」

どう良く見積もっても腹を壊しそうな雰囲気を発しているソレを見つめて、思いきり眉根をひそめる。
とてもじゃないが、これを飲もうと言う気にはなりそうにもない。

「こんな怪しいもん飲めるかよ」

「味は甘くておいしいわよ」

全然飲める味だと笑うララベルに大きくため息を吐いてみせる。味がどうこうという問題よりも、見た目の問題だ。効能もよく分からないそれは毒薬以外の何物にも見えない。

「もう、男らしくないわねぇ。飲んでみてって綺麗な子に言われたら、飲み干してみせるのが礼儀でしょ」

きっとアイクさんなら飲んでくれるのに、と付け加えられた一言に、ぴくりと眉が動く。
尚もアイクさんなら、アイクさんならと延々続いていく言葉に、徐々に苛立ちが募っていく。

「ごちゃごちゃうるせぇよ!飲めば良いんだろうが」

アイクの坊やに出来て俺に出来ない訳がない──半ばヤケに近い気分で、ぐっとその液体を飲み干す。
喉をすっと通っていく甘い液体は思ったよりもさらりとしていて。
意外にもおいしいそれに、ぎゅっと瞑っていた瞳を開ける。

「…意外にフツーだな…」

「だから、おいしいって言ったじゃない。…で、どう?ドキドキしない?」

「はぁ?」

不意に聞かれた突拍子もない言葉に思いきり顔をしかめる。
どういうことだと相手の瞳を半ば睨むように見つめると、怒らないでと悪気のなさそうな笑みが返される。

「別に怪しいクスリじゃないわよ。ただの媚薬だから」

「媚薬だぁ?」

「簡単に言えば、ホレ薬……」

思わずその単語に固まった俺と同じくララベルの言葉もぷつりと途切れて。
更に問い詰めようとじっと睨むように見つめると、やけに潤んだ瞳とぶつかって、思わず2、3歩下がりそうになる。

「お、おい…?」

「シノンさん…、その切れ長の赤い瞳…。まるでルビーみたいね」

そんな寒々しくなるような口説き文句を言われながら、そっと頬に触れられる。
思わず椅子からずり落ちそうになりながら、近づいてくる顔から身体を引き離す。

「おい、ふざけんのもいい加減に─!」

「シノンさん…。大好きよ」

そう言って、抱きついてきそうな勢いで迫ってくるララベルに今度こそ思いきり身体を離す。そのまま距離を置こうとして勢い良く下がると、天幕の端にぶつかった。
もうこれ以上下がれないことを悟って、ごくりと唾を飲み込む。

「ふふ…。もう逃がさないんだから」

一緒になりましょ、と妖艶に笑う姿にぞくりと寒気が背筋を駆けていく。
次の瞬間、ゆっくりと近づいてくるララベルを視界に入れつつ、地面を強く蹴って走りだす。

横を駆け抜ける時に逃がさないとばかりに伸びてきた腕を手刀で防ぐと、そのまま天幕の入り口へと駆け込み、外へと飛び出した。






「はぁ…ヒデェ目に合ったぜ…」

荒い息を整えながら、ぽつりと零れた言葉にどっと疲れが甦ってくる。
やっぱあんな危ないもの飲むんじゃなかったと怒濤のように後悔が押し寄せてきて、思わずため息を吐きたくなる。
とりあえずあの天幕にはもう近づかないでおこうと強く心に誓うと、なるべく離れようと歩きだす。

「あ、シノンさんこんなとこにいたんすね!」

探しましたよーと騒がしく近づいてくる人影に思いきり顔をしかめて振り向く。
どうせまた女の話をネタに酒に付き合わされるんだろうと思うと、面倒だという気持ちが浮かんで、ため息が零れた。

「何か用か?」

急いでるからさっさと話せと促すように視線を向けると、そこには何故かぽかんと口を開けた間抜け面があって。思わず眉間に寄っていた皺がますます深くなる。

「おい、ガトリー…」

「…こんなとこにいたんすね」

ぽかんとした間抜け面から神妙な顔で、まじまじとこちらを見つめてくる視線に言い知れない違和感を感じつつも、何となく目を逸らせないまま眉間の皺を深める。

「…俺の運命の人…」

ぽつりと聞こえてきた寒々しい言葉と共に、ぎゅっと両腕を捕まれる。
それと共に近づいてくる顔に思わず背筋があわ立つ。

「〜ッ!!離せ、バカ!」

反射的に出た言葉と共に鳩尾に思いきり蹴りを入れる。ぐっ、という呻きと共に僅かに緩んだ手を振り切ると、慌てて背を向けて走りだす。

「痛!」

「っと…。大丈夫か?」

どんと勢い良くぶつかった相手から声を掛けられて顔を上げると、ぶつかるどころか会話もロクにしたくもない青の瞳がそこにあって。思わず舌打ちをしそうになる。

「俺は急いでんだ。邪魔だから退け!」

半ば八つ当たりに近い言い草でそう言うと、ガッと肩を掴んで退かそうとする。
…が、掴んだ肩は力が込められているせいかピクリとも動かず、逆に腕を捕まれ、力強く抱き締められる。

「な…っ!?」

「シノン…」

あまりの予想だにしない出来事に目をしばたかせていた俺の耳元で、低く低く名前を囁かれて。
団長の声にも似たその響きにどくんと心臓が跳ねる。

「おい、アイク離れろよ!」

つい雰囲気に呑まれて、固まってしまっていた俺の身体を引き剥がすようにガトリーの腕に抱き寄せられる。
しかし、アイクも離さないと言わんばかりに空いたもう片方の腕を掴んできて。
完全に二人に両腕を掴まれ、取り合いの状況になっている現状に、げっそりと疲れが湧いてくる。

「テメェらいい加減に…!」

しやがれと言おうとした矢先、ふわりと薄茶色の羽が舞い降りてきて。
反射的に見上げた先には、鷹の青年──ヤナフがこちらを楽しげな表情で見ていた。
からかうようなそんな視線に苛立って、睨むような視線を返すと、バサリと羽の舞う音がして。
俺の腕を掴んでいたアイクとガトリーを引き離すようにぐるりと舞う鷹の姿が視界に映り。

化身したのだと気付くと同時に、背後からぎゅっと抱き締められると、どこか幼さの残る声が耳元で響いた。

「しっかり捕まってろよ」

その言葉に疑問を抱くよりも早く足が地面から離れていて。
宙に浮かんだ俺を引きずり下ろそうと伸びてきた手に蹴りを入れると、振り落とされないようにしっかりと腕に捕まった。




「危ないとこだったな、大丈夫か?」

「…あぁ、まぁな」

先程の光景を思い返して、疲れがどっと押し寄せてきて、深い深いため息を吐く。あの怪しげな「ホレ薬」を飲んでから、本当に面倒なことばかりだ。

─とはいえ、効果は長いものではないだろう。
効果が切れたら絶対文句を言いに行ってやろうと心に強く誓っていると不意に顎を掴まれて。
何事かと身構えると同時に唇が静かに押しあてられて、一瞬頭が真っ白になる。

「ん、んんっ!?」

「あ、悪い悪い。可愛かったからつい」

悪びれた様子もなく笑うその顔に思わず握り締めた拳を解きそうになる。
子供みたいだ、なんて当人に言ったら怒られそうなことを思いながらため息を零すと、もう一度唇が重ねられて。
今度は無遠慮に舌が差し込まれて。意識がホワイトアウトするより早く、握り締めた拳で思いきりヤナフの頭をどつく。

「ってぇ!」

「─にしてんだ、テメェは!!」

ふざけんのも大概にしろと息巻くと相変わらず幼さの残る顔がだらしなく緩んだ。

「怒った顔も可愛いな〜」

「な…!」

「大事に可愛がってやるから」

そう言いつつ倒れこんで来るのを必死に押し返しながら抵抗を試みるものの、上手く押し返しきれず、ついには地面に押し倒されて。
ガンと思いきりぶつけた頭が痛んだが、そんなことよりも目の前のヤナフの俺を見つめるやけに潤んだ瞳が気になって。
嫌な想像が頭を駆け巡る中、トドメと言わんばかりに爆弾が投下された。

「絶対痛い思いはさせないからな」

力抜いてろよ、と言われた言葉に逆に思いきり力を込めて抵抗を試みる。
けれど、のしかかってくる力は強く跳ね退けることは出来そうもなくて。
徐々に近づいてくる顔に、もう覚悟を決めるしかと瞳を強く閉じかけたところで、ヒュという風切り音と共に目の前すれすれを矢が飛んでくる。

「うわっと!」

「動かないで!それ以上動くと撃つよ!」

バサリという羽音と共に離れていったヤナフに追い討ちをかけるように、固い声が響いて。
その声の方向に顔を向ければ、弓を構え、完全に威嚇の態勢に入っている弟子の姿があった。

「ヨファ…」

「シノンさん、早くこっちに!」

俺の方を見ずにそう言い放ったヨファの声に慌てて身体を起こして、ヨファの方へと駆け寄る。
凛とした表情でヤナフを見据えるヨファは普段よりもずっと大人に見えて。
思いがけずして見られた弟子の成長に何だか胸が熱くなる。
そんな俺の心を知ってか知らずか、ヨファは隣に立つ俺に小さく目配せすると、キリキリと弓矢を目一杯引いてヤナフの翼へと狙いを定めた。

「シノンさん、走って!」

その言葉と共に思いきり駆け出すと、後ろから弓を撃ち終わったヨファが駆けてきて。
そのまま手を掴まれると、その手に引かれるがままに森の方へとひた走っていった。




「シノンさん、大丈夫だった?」

何もされてない、と覗き込んでくる瞳に頷きかけて、その近さに思わず身体を固くする。
また先程のようにヨファまでオカシくなるんじゃないかなんて考えていた俺の予想に反して、ヨファはいつものようににっこりと笑った。

「何もされてないんだよね?それなら良かった…」

「…お前、平気なのか?」

先程から散々繰り返されたやり取りを思い出しながらそう尋ねた俺に、きょとんとした表情でヨファは首を傾げた。

「何が?」

「いや、その…だな…」

どう言っていいものか、迷いながらも今までの経緯をぽつりぽつりと話していくと、ヨファは酷く当たり前のように笑った。

「なぁんだ。そんなの僕には効かないよ」

「何でだよ?」

あんなにあいつらにはよく効いてたんだ。今更効果のほどについては疑う余地なんてない。
ヨファにだけ効かないなんて事がある訳ないなんて考えていた俺に、ヨファは上機嫌に笑った。

「僕、ホレ薬なんてなくてもシノンさんの事、大好きだもん」

「…!」

その言葉に思わずかぁっと頭に血が上るのが分かって。咄嗟に顔を背けた俺の頬に、そっと柔らかな感触が触れていった。





──後日、ほとぼりが冷めたララベルに薬の効果を聞いたが、ヨファの言ったことが真実かどうだったかは、未だ分からないまま。



end.


一万打企画にて書かせて頂きましたシノン受けでした。
ガトリーとアイク、ヤナフで取り合いみたいな感じで書きたかったんですが、ものすごいドタバタ劇になっただけのような…orz
そしてオチがヨファシノなのは愛故なので、スルーの方向でお願いします(笑)
リクエスト、ありがとうございました!