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flower magic




あなたの紡ぐ言葉ひとつで、

わたしはこんなにも、しあわせになれるんだよ。








晴れ渡る青い空。気持ち良さそうに浮かぶ白い雲。そして、きわめつけは眩しい太陽。
これはもう訓練日和に違いないと、上機嫌で砦から少し離れたお気に入りの訓練場所へと歩いていく。
何でもそこは、大将がよく団長やボーレと手合わせしていた場所らしく、訓練するには丁度良い広さだった。
今日もそこでめいっぱい訓練しようなんて考えたら、自然と足が早くなって。
ほとんど駆け足のようにその場所へと行くと、そこには既に先客が待っていた。

「ミスト」

訓練場所のすぐ近くにある花畑の中で楽しげに歌うミストの姿を見つけて、名前を呼ぶ。あたしの呼びかけに振り返ったミストは酷く上機嫌で。にこにことあたしに笑いかけてくれた。

「ワユ!ねぇ、これ見て!」

「これ…」

そう言ってミストが見せてくれたのは、綺麗な花で作られた花かんむりだ。白や赤、黄色など色鮮やかな花々が器用に冠を形作っていて。ミストの指先の器用さに思わずため息を漏らす。

「すごーい!キレイだねぇ」

「えへへ、でしょー?すごくきれいに咲いてたから、つい作っちゃった」

嬉しそうに見せてくれた花かんむりを胸に抱いて、ミストがにっこりと笑う。その笑顔が何だか花みたいで。つられてあたしも笑顔が零れた。

「そうだ!ワユにも作ってあげる!」

「えぇ!?あ、あたしは良いよっ!似合わないし」

「絶対似合うってば!待っててね、今作るから」

予想しなかった提案に慌てるあたしを横目にミストはにっこりと笑うと、手にした花かんむりを自分の頭に乗せ、新しい花を摘み始めた。

赤い花、黄色い花、白い花…。色鮮やかな花はやっぱり綺麗で。そのひとつひとつが摘まれ、編みこまれていくのをじっと見つめる。

似合うわけないのにって心の中では思うのに、出来上がっていく花かんむりを見ていると自然に心が弾んでいった。

「出来たっ!」

あっという間に完成した花かんむりは、ミストの頭に乗っているものと同じくらいキレイで。思わず顔が綻んでいた。

「すごいすごい!やっぱりキレイだね〜」

「えへへ、ありがと!はい、ワユの分」

そう言って、言葉を挟む隙もないままに、ぽんと頭に出来上がったばかりの花かんむりを乗せられる。

「やっぱり似合う!可愛いよ、ワユ」

「え?そ、そうかな?」

慣れない褒め言葉に、気恥ずかしさで花かんむりを脱いでしまいたくなったけれど。あまりにも嬉しそうミストが笑うから。ありがとうと笑って返した。

「何してるの?二人とも」

不意に背後から聞こえた声に振り向けば、不思議そうにあたしたちを見つめる橙色の瞳にぶつかった。

「キ、キルロイさんっ!」

予想しなかった人物の登場に、思わず声が裏返りそうになる。驚きと羞恥で固まったあたしをよそに、ミストは気にした風もなくキルロイさんに笑いかけた。

「花かんむり作ってたんだ。お花がすごくきれいだったから」

「そうなんだ。よく似合ってるよ」

「ありがとう。ね、ワユもよく似合ってるでしょ?」

二人と少し離れたところにいたあたしの背中をぽんと軽くミストが押す。意図せずして、キルロイさんの前に立つことになって、どくんと大きく心臓が跳ねる。
恥ずかしさで俯き気味になっているあたしをじっと見つめる視線を感じて。こっそりと様子を探るようにキルロイさんを見つめると、ぼんやりとした瞳であたしを見つめていた。

「キルロイさん?」

「えっ!?あ、いや、その……」

急に黙ったキルロイさんを不思議に思ったのかミストが声を掛けると、酷くびっくりしたように身体を強張らせて。そして、口籠もってしまった。

─あぁ、やっぱり似合ってないから、言葉に困ってるんだ。

「…キルロイさん!コレあげる!」

これ以上、この姿を見られたくなくて。勢いよく、頭に乗せたままの花かんむりを取って、そのままキルロイさんの頭へと乗せる。
ばさりと音を立てて、オレンジ色の髪に乗った花かんむりはあたしが着けているよりもずっとずっと似合っているように思えた。

「ワユ…さん?」

「うんっ!やっぱりあたしが着けるより似合ってる!じゃ、あたしはあっちで剣でも振ってくるよ」

口早にそうとだけ告げると、気まずさから逃れるように早足でその場を後にした。




アテもなく早足でずんずんと前に進んで。もう二人の声が聞こえないくらいの距離まで歩いた所で、ぴたりと足を止め、しゃがみこんだ。

「不自然だったかなぁ〜…やっぱり」

言い訳にもならない言葉を残してきてしまったことに、はぁと大きくため息をつく。でも、あれ以上あの場にいるということは、キルロイさんの言葉を聞くことになるということで。
それだけはどうしても避けたかったから、無理矢理ではあったけれど、あの場から離れられて、ほっとする。

─やさしいキルロイさんの事だから、きっと傷つくような言葉を言いはしないだろうけど。無理に「似合ってる」なんて言わせたくもなかった。

「…ミストはホント似合ってたな」

ふと先程の光景を思い出して、ぽつりと呟く。ミストの小麦色の髪に色鮮やかな花かんむりはよく似合っていて、いつも以上に可愛く見えた。
あたしは、ミストみたいに女の子らしくもないし、可愛くもない。

─…だから、ミストみたいにキルロイさんに「似合ってる」なんて言ってもらえるようにはなれない。

「…キルロイさん…」

ぽつりと名前を呼べば、後ろからこちらへと駆け寄ってくる足音が聞こえてきて。慌てて立ち上がって振り向けば、あたしの方へと駆けてくるキルロイさんの姿があった。

「ワユさん、良かった…。追いついて」

肩で息を吐きながら、ほっとしたように笑うキルロイさんの姿にズキと胸が痛む。追いかけてきてくれたことが嬉しくて。…苦しくて。どう言っていいか迷っていたあたしに、キルロイさんはふわりと笑いかけた。

「ワユさんに渡したいものがあったんだ」

「渡したいもの?」

「はい、これ」

キルロイさんがそう言って取り出してきたのは、ついさっきあたしがキルロイさんの頭に無理矢理乗せた花かんむりだった。
走ってきたせいか少し乱れてはいるものの、相変わらずキレイで。香ってくる甘い香りに胸が痛んだ。

「…でも、あたしじゃ似合わないし…」

「ううん。僕がつけるより、やっぱりワユさんの方が似合うよ」

あたしの言葉に首を横に振って。微笑んだまま、手に持っていた花かんむりをそっとあたしの頭に乗せた。

「へ、変じゃない?」

似合うって言葉がやっぱり信じられなくて、思わずそう聞いたあたしにキルロイさんはにっこりと笑ってくれた。

「可愛いよ、ワユさん」

「!」

その笑顔に思わず心臓が止まりそうになる。嘘なんかついてないって、痛いくらいに分かって。かぁっと顔が熱くなるのが分かった。

「……あ、りがと」

恥ずかしさで上手く声が出なくて、途切れ途切れになったお礼の言葉に、キルロイさんはやさしく笑って。

そして、ご褒美をくれるみたいに、そっとあたしの唇に口付けた。




木の陰からこっそりと様子を見ていたけれど、ワユとキルロイさんがキスをするのが見えて慌てて後ろを向く。
わたしのせいで二人が気まずくなったらどうしようなんて思って様子を見に来たのだけれど、どうやら余計な心配だったみたいだ。

「何だかんだあの二人って仲良いもんね」

ぽつりと呟いた一言に、普段の二人を思い出して、笑みを零す。よく二人で話したり出掛けたりしている姿は、きっと本人達が意識していないだけで傍から見ていると、本当に仲の良い恋人同士のようだった。

「…何ニヤニヤしてんだ?」

不意に掛けられた聞きなれた声に振り返ると、ボーレが不審そうな目でわたしを見ていて。慌ててむっとした表情でボーレを軽く睨んだ。

「別にニヤニヤなんてしてないもん」

「ふーん。ま、いいけどよ。…ん?」

何かに気付いたのか、じっとわたしの方を見ていて。真っ直ぐな視線に思わず胸がどくんと跳ねる。

「花かんむり、作ったのか?」

「うん。だって、お花がきれいだったから」

そう言ったわたしをじっとボーレは見ていて。何だかその視線が子どもっぽいって言っているような気がして、ぷいとそっぽを向いた。

「どうせ子どもっぽいって思ってるんでしょ」

「別に言ってねぇだろ!……似合ってるよ」

「…え?」

慌ててボーレの方を見ると、そっぽを向いてしまっていて、表情は見えなかったけれど。僅かに見えた耳が赤くなっているのが見えて、自然と頬が綻んだ。

「……ありがとう」

「?何か言ったか?」

「ナイショ!」

そう言うと、ボーレの腕をぐいと引っ張って。少しよろけたところに、そっと頬に口付けた。



end.




3周年企画です。キルワユ+ボレミのカップリング交ぜ話でした。
二つともメインだぜ☆って気分で書いたんですが、キルワユのが目立った気がします。
うーん…難しいですね;;そして、視点が移動するので読みにくかったらホントすいません!日本語能力がもっと欲しいorz
でも、話自体は楽しく書かせて頂きました。リクエスト下さった方、ありがとうございました!