heart of sword一日、一日と日が経つにつれ、近づいてくる祖国。 …それは、死に近づいているのか、それとも栄光ある帰還となるのか。 ──間違いなく前者であることを知りつつも、迷わず進んでいけるのは、隣を行く人を支えたいと願ったから。 ─そう遠くない距離から騎竜の鳴き声が聞こえる。 威嚇するような鋭い声に全身が震えた。 「隊長!!後方から追っ手が!!」 同じ隊の同志がそう言うと、先頭を駈けていた隊長が振り返り、踵を返す。 後方を確認すると、もう肉眼で確認出来る距離に迫っ手の姿を見つけ、無言で槍を握る手に力を込めた。 ──命が尽きるまで戦う。 それが、この隊で自分が出来ることだと信じていたから。 …けれど、隊長は静かに追っ手を見据えると、鋭く言葉を放った。 「ヴァイダ隊、総員退避」 「隊長!?」 「無理です!!あれだけの追っ手を振り切るなんて!!」 「そうです!俺たちは死ぬ覚悟は出来てます。最後まで戦います!」 次々と口を揃えて反論する中、ビュッと鋭く空気を切り、隊長の槍が目の前を凪いでいく。 途端、静まり返った俺たちを隊長はじっと見つめて、口を開いた。 「グダグダ言ってんじゃないよ!!あたしが退避と言ったら退避だ!上官の命令に従いな」 「隊長は……どうするんですか?」 槍を構えたまま、悠然と佇むその姿に問い掛ける。 隊長はその言葉に、じっと後方の追っ手を見つめて静かに言った。 「あたしはここに残って囮になる」 「そんな…!!」 「良いかい、あたしが囮になるんだ。絶対に生き残りな!」 命令だと言い残して、アンブリエルと共に、もうすぐそこまで迫った追っ手たちに突っ込んでいく。 その後ろ姿は、強く美しくて。 ──…俺は。 ただただ、共に在れない自分の力のなさを憎み、ぎゅっと唇を噛み締めた。 ぱちぱちと火の爆ぜる音に目を覚ます。 虚ろに開いた目で周りを確認すると、アンブリエルの傍で武器の手入れをしている隊長の姿を見つけた。 「隊長…」 擦れた声で呼び掛けると、火で赤々と照らされた意志の強い瞳がこちらに向けられる。 そっと槍を手放すと、隊長がすぐ傍まで来てくれた。 「…随分うなされてたね。嫌な夢でも見たかい?」 子供をあやすように、そっと額を撫でられる。その問いに小さく頷くと、ぽつりと言葉を溢した。 「…昔の夢を…見ていました」 「…そうかい」 それ以上追及する訳じゃなく、ただあやすように頭を撫でられる。 まるで、親に甘える子供みたいだとぼんやりと考えていると、そっと隊長の顔が近づき、額にあたたかな感触が寄せられる。 「…寝な。次の見張りの交替まで、まだ時間がある」 「…はい」 そのあたたかな感触が何かを悟って、恥ずかしさで毛布を目深に被る。 けれど、その優しくあたたかな感触は心地よくて。 再び微睡んでゆく意識の中、アンブリエルの下へ歩いていく隊長の後ろ姿を目で追う。 ──…あの時。 自分達を逃がしてくれた時と同じように迷いのない、強く美しい後ろ姿。 …けど、あの時と一つだけ違うことがある。 今は、共に在れる力があるから。 ──だから…。 「…今度は、俺が…隊長を守ります」 閉じてゆく意識の中、決意を込めて、小さく小さく呟いた。 end. やさい様へ捧げたヴァイダ×ヒースです。 この二人はどっちでもイケます。でも、ヴァイダ隊長は恋愛に関してはすごく鈍感だといい…! リクエスト、ありがとうございました! |