Rise'n Beauty簡単に触れるのを良しとしない、その凜とした姿が酷く愛しくて、美しいと思う。 ふと、眠りの淵から気配を感じて目を開けると、隣に暖かさを感じて、そちらに目をやる。 隣では、透き通るような金糸の髪がたゆたい、静かに眠る幼なじみの姿があった。 「リュシオン…?」 何で隣でと言い掛けて、昨日のことを思い出して口をつぐむ。 一緒に晩酌をと誘い、酔ったリュシオンに無理矢理泊まっていくように勧めたことを思い出して、苦笑する。 何て自分の必死なことだろう。 「…良く寝てるな」 隣から聞こえてくる静かな寝息にそう呟きを零す。 静かに眠るその姿はまるで、ニンゲンの好きな美術品のようだと思う。 手元に置きたいと喝望する気持ちも分からなくはない。 けれど…。普通は大人しい種族でもコイツは違う。 簡単に飼い慣らされて、泣き暮らすような性格じゃない。 以前、囚われていた時の真直ぐな強い瞳を思い出して、苦笑する。 触れるのさえ躊躇うような強さが確かにコイツにはある。 …只の芸術品にならない強さが。 こうして寝ている時でさえ、それが感じられるように思う。 触れるのを拒むような凛とした姿が酷く愛おしくて、そっと髪に触れた。 さらりと手から零れる髪は金糸のようで、それがこそばゆいのか背中の純白の羽が僅かに揺れた。 流石に起きるだろうかと伸ばした手を止めて、じっと様子を探ってみたが、閉じられた瞳はそのままで、聞こえてくる呼吸音も静かなままだ。 綺麗に伸びた睫毛やたゆたう金糸に誘われるように、置いたままの手に僅かに力を込め、顔を近付ける。 すうすうと呼吸を繰り返す唇は薄く赤く色づいて、誘うように開かれて。触れられそうなくらい近い距離にあるその薄い唇に瞳が釘付けになる。 流石に寝ている間にするのは卑怯だろうかという気持ちが過ったが、起きている時では、気安く触れるのすら嫌がるのだ。 こんなこと余程のことがない限り許してもらえた覚えがないことを思い出して、少しくらいなら良いだろうと自分に言い訳して、そっと唇を重ねる。 柔らかな感触と暖かさが唇から離れると同時に、幼なじみの瞳がぱちりと開かれ、途端に眉がきゅっとしかめられた。 「…何をしている?」 「ちょっとした悪戯、かな」 普段よりオクターブ低い不機嫌な声にそうおどけて返すと、益々しかめ面に拍車がかかる。 「ふざけるな。真面目に答えろ」 「ちょっとしたスキンシップだろ?そんなに怒るなよ」 な?と言って頭を撫でようと手を伸ばした瞬間に、バシと勢い良くはたかれる。 相当不機嫌なのが伝わってきて、どうしたものかと心の中でため息を零した。 「まさか、寝ている間にこんな事をされると思わなかったぞ」 「寝てる時でもないと、出来ないと思ったんだよ」 「普通こういうことは双方の同意の元にやるだろうが」 「悪かったよ。今度はちゃんと確認してからにするって。だから、そんなに怒るなよ」 両手を合わせてそう謝ると僅かに張り詰めた空気が柔らかくなる。 少しは許してもらえただろうかとちらりと様子を伺うと、ふぅと呆れたように溜め息をつくのが見えた。 「…お前の悪かったは信用出来ん」 「ホントに悪かったって。もう勝手にはしねぇからさ」 「…どうだかな」 「ホントだって。…だからさ」 そこまで言って、ぐいとリュシオンを引き寄せ、額を合わせる。 暖かな熱が額越しに伝わり、瞳からは驚いた様子のリュシオンの顔が飛び込んできた。 「おやすみのキスして良いか?」 囁くように言って、にっと口元を上げると、途端にリュシオンの顔がかぁと赤に染まる。 「ば、馬鹿か!そんな事わざわざ聞く奴が―!」 「勝手にするなって言ったのはお前だろ?」 「大体、キスならさっきしてただろう!」 「あれは俺から勝手にしたからな。今度はお前の同意をもらってから、するからさ」 「………」 そんな言い合いに、リュシオンはむすっとした表情で黙り込むと、小さく、本当に小さな声で勝手にしろと呟いて、さっと視線を外した。 その様子が酷く可愛らしく愛おしくて、思わず笑みが零れる。 俯いてしまった幼なじみの顔をそっと上げると、びくりと体が強ばるのが分かって。 その緊張を解こうと、合わせていた額から体を離し、軽く額に口付けを落とす。 俯いて視線を外してしまっていたリュシオンが、驚いたようにぱっと顔を上げたのに合わせて、笑みを向けると、今度はついばむように唇に口付けた。 「それじゃ、おやすみ…な」 「…あぁ」 ぶっきらぼうにそう言って、背を向けられる。 やっぱ怒ってるのかと様子を探ろうとして、口を開きかけたところで、金糸の間から覗いた耳が赤く染まっているのが見えて。 そんなリュシオンが酷く愛おしくて。後ろからぎゅっと抱き締めた。 END. この二人は親友でも恋人でも、変わらずお互いがお互いに対して甘いと思います。 リュシ王子のテレ顔とかすごく綺麗でかわいいんだろうなぁというお話(笑) |