赤橙それは、夕闇を告げる色。 闇が世界を包む前のエマージェンシー。 それは、光の訪れを告げる色。 極彩色に世界を染める、太陽が昇る証。 赤橙 「お前の髪って目立つよな」 ふわりと吹いた風に吹かれて揺れる長く綺麗な紅い髪を見つめながら、ぽつりと呟く。 歩く動作に合わせて柔らかく揺れるその髪は、触り心地が良さそうで。 触ってみたいという欲求がむくむくと沸き上がってきたけれど。触れたと気付かれた瞬間に、思いきり睨み付けられる様子が想像するまでもなく頭をよぎって。 ──隙を見て触るか、なんて考えながら、揺れる紅を見つめた。 「綺麗な色だよなぁ…」 …あぁ、やっぱり触りたい。 そう思って無意識に伸ばした指は、くるりと身体を反転させてこちらを呆れたように見つめる視線に邪魔されて、虚しく空をきる。 触れることが出来なかったことに対する残念な気持ちもあったけれど。足を止めて振り向いてくれた事実の方が嬉しくて、自然に笑みが零れた。 「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ」 静かに歩けないのか、と苛立ちまじりにシノンが吐き出した溜め息と言葉にへらりと笑ってみせる。 「だって、シノンの髪が綺麗でさ」 上機嫌に言った俺のその言葉にシノンは深々とため息を吐いて。 完全に呆れた眼差しを無遠慮に向けられる。 その呆れた眼差しも何だか拗ねた子どもみたいで可愛くて。ますます頬が緩んでいくのが分かった。 「……呆れてんのも分かんねぇのかよ?お前、鷹王の眼だろ」 「ん?分かってるよ」 嫌みたらたらに吐き出された言葉にそう返すと、シノンの眉間の皺はますます深まって。 そのまま続けて出てきそうな文句を聞かないようにするために、そっと唇を押し当てる。 「…!テメェ、何しやがるっ!」 思いきり俺を振り払おうと振り上げた手が視界の端に見えて。即座にその場を離れた俺の耳に、顔を真っ赤にしたシノンの怒声が響く。 怒らせたのだとは分かったけれど、真っ赤に染まった頬と、口付けた時の柔らかな感触が忘れられなくて。 殴られない位置まで一気に飛び上がると、にっと笑ってみせた。 「お前って可愛いよな!」 「〜っのバカ鳥!下らねぇこと言ってんじゃねぇ!」 苛々とした口調で怒鳴るシノンもやっぱり可愛くて。 楽しげに笑う俺をシノンは思いきり睨み付けると、くるりと身体を反転させて先へ先へと駆けるように歩いていってしまう。 その背中を慌てて羽を広げて追い掛ける。 歩く動作に合わせて揺れる紅は、やっぱり綺麗で。 でも、少し前──この軍についていくようになるまでは、夕焼けにも朝焼けの色にも似たその色は決して好きな色ではなかったことをふと思い出した。 闇を告げる夕焼けは、視界が遮られることの前兆で、不安を煽られたことも少なくなかったし、朝焼けは闇に馴染もうとした瞳には眩しすぎて。瞳が眩んだことは数えきれないほどだ。 ─…それでも。 今目の前で揺れる紅を綺麗だと思うのは、目の前を歩くシノンを愛しく思うから。 頭の先から爪先まで、愛おしくて、触れたくてたまらないから。 ─…だから、こんなにも焦がれるんだ。 そんな気持ちの赴くままに、夕焼けにも朝焼けにも見えるその紅にそっと手を伸ばせば、今度は紅に触れることが出来て。 想像していた通りの柔らかな髪はやっぱり綺麗で。 込み上げてくる愛しさを込めて、小さく小さく口付けを落とした。 end. 行軍中のつもりで書いてたヤナシノでした。…うん、あくまでつもりです←← ヤナシノは、ヤナフがシノンを猫っ可愛がりしてるイメージ。で、シノンもそれにちょっとほだされてると可愛いと思うんだ!(はいはい) リクエストありがとうございました! そして、ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました! 2010.10.27 |