Love catch!!─どうして自分はこんなにも間が悪いんだろう。 目の前で繰り広げられる終わりのなさそうな戦いを見つめながら、不運な神父─キルロイは女神アスタルテに祈りを捧げた。 「だーかーらー!!今日はシノンさんは、僕と一緒にいるの!!」 食堂にまだ幼さの残る声が響き渡る。バンと勢い良く叩かれた机がガタリと揺れた。その音に、不幸にもワユとお茶をしに、同じく食堂に居合わせたキルロイがびくりと身体を強ばらせる。 だが、ヨファの目の前に座る人物──ガトリーには、動じる様子も、ましてや怯える様子もない。逆に不敵な笑みを浮かべ、完全に頭に血の上っているヨファを見つめていた。 「っは!残念だったなぁ、ヨファ。今日はシノンさんは俺と呑みに行くんだよ」 「行かないってば!どうせ約束してないんでしょ」 「残念でしたー。昨日ばっちり約束取り付けたもんねー」 はっはっはと自慢気にガトリーが胸を張る。 くっと悔しげにヨファが唇を噛み締め、憎々しげにガトリーを睨み付ける。 「…でもっ!いつも約束破られてるじゃない」 「う…。で、でも大体守って貰えてるっつーの!」 「あれ?そうだったっけ?前は確か僕との約束を優先してくれたんだよねー。もしかしたら、今日も僕との約束を優先してくれるかも」 チラとガトリーを見つめて勝ち誇ったように、ヨファが笑みを浮かべ、トドメとばかりに言葉を続ける。 「だって僕の方がシノンさんに好かれてるし」 「はぁ?何言ってんだよ。んな訳ねぇだろ。俺の方が愛されてるっつーの」 負けじとガトリーがそう言い返し、勝ち誇ったように笑うヨファに笑い返す。 暫し、無言の時が訪れ、二人の間に険悪な空気が流れる。 「……ワユさん。ちょっと揉めてるみたいだし、とりあえずここを出──」 「二人とも!そういう時は決闘だよ!」 「ワユさん!!?」 何言ってるのと止めようとした所で、時すでに遅し。 ワユはすたすたと二人に近づいてゆき、ガシッと二人の手を握り締めた。 「決闘…?」 「望むところじゃねぇか!」 完全に頭に血が上っている二人には願ってもない提案のようで、今にも殴りかかりそうな勢いで覇気が放たれる。 その勢いに思わずたじろぎそうになるが、何とか止めねばという気持ちがキルロイを後押しした。 「ちょっ、決闘って言ってもホントに戦う訳じゃないよね?」 「え?戦えば良いんじゃない?」 ダメなの?と言った表情のワユにため息を吐きたくなるのを寸での所で我慢して、キルロイは諭すようにやんわりと言葉を返した。 「駄目だよ。ヨファは弓兵でガトリーは重歩兵でしょ?射程が違いすぎるよ」 「あ、そっか。ヨファ近距離駄目なんだもんね」 忘れてたとあっさり笑うワユに、ヨファがにこやかに微笑み返す。 「やってみなくちゃ分からないよ?これでも力はある方だから」 肉弾戦だってやれるよと言いだしかねない程の闘気を纏って、ヨファが朗らかに笑う。 ─表情と一致してない言動が怖い。 何だか、そういう所が段々オスカーに似てきたんじゃないかと、キルロイは遠い眼差しで成長したヨファを見つめた。 「じゃあ、こういうのはどう?」 その言葉を発端として、新たな戦いが勃発することになることを、その場に居合わせた面々でキルロイだけが感じていた。 「それでは!第一回シノンの事どっちがより知ってるか対決を始めますっ!」 誰に向かってなのか、宣誓するようにびしっと手を上げて、ワユがそう宣言する。 キルロイの願いもあり、何とか穏便な解決方法をということで、提案されたのが、どちらがよりシノンの事を分かっているかを競うというものだった。 順々にシノンに関する事を言い合って、言葉に詰まった方が負けという穏便なもの……のハズなのだが。 『空気が……重い…』 先程よりも、より一層殺気が増したように思う食堂で、キルロイがぽつりと心の中でため息を零す。 ─対峙している二人に、勿論譲る様子などなく。 剣呑な空気がひたすら重く感じた。 「では、まずヨファから!」 「シノンさんは弓の腕だけじゃなくて、弓を作るのも上手!」 「へぇ、そうなの?」 知らなかったーと呑気にワユが相槌を打つと、ぱあっとヨファの表情が明るくなった。 「そうなんだよ!行商に出すとすっごい高値がつく位良い出来なんだよ」 すごいでしょと上機嫌に続けるヨファに、ガトリーが鼻で笑い飛ばす。 「そんなん俺でも知ってるっての。じゃ、これは知ってるか?シノンさんは酔うと絡み上戸になる!」 「あ、笑い上戸じゃないんだ?」 何で笑い上戸なのとキルロイが突っ込むより先に、ガトリーが嬉々として、ワユの言葉に答える。 「そう!まぁ、笑い上戸でも可愛いと思うけど、絡んでくるのも可愛いんだぜ〜」 「シノンさんは可愛いんじゃなくて美人だもん。誉め方間違ってるんじゃない?」 不機嫌そうにそう返したヨファに先程まで笑顔だったガトリーの表情が一気に強ばる。 「はぁ?美人じゃなくて可愛いだろ!ツンデレは可愛い属性なんだよ!」 「シノンさんはツンデレだけど、美人なの!この傭兵団で一番美人だもん!!」 「それを言うなら、この傭兵団一の可愛いお花ちゃんだっつーの!!」 完全に本来の論点からズレた所で、ヨファとガトリーが言い合いを始める。 「可愛い」と「美人」の掛けあいを聞きながら、キルロイが困ったように眉をしかめた。 「ワユさん、あの二人ちょっと止めた方が良いんじゃ…」 「何で?ようやく決闘らしくなってきたじゃん」 そう楽しげに笑ったワユに、キルロイは心底泣きたい気持ちに駆られた。 ─が。ここで落ち込んでいたら、そのうち掴み合いになるのは目に見えていて。 それを阻止すべく、立ち上がろうとしたキルロイを制するように、バンと勢い良く食堂の扉が開かれる。 何事かと、音の発信源を見やった面々の目に飛び込んできた人物に、一人を除いて、全員が氷像のように固まった。 「よぉ…。随分楽しそうじゃねぇか」 「あ、シノン」 来てたの?と問い掛けるワユの視線を尻目に、つかつかとシノンは歩み寄り、ヨファとガトリー、二人の肩をぐっと引き寄せた。 「…で?誰が、ツンデレで美人で可愛いんだってか?ぁあ?」 見たこともない位、爽やかな笑顔を浮かべ、そう詰問する姿に思わずキルロイが目線を背ける。 …ただ、その爽やかな笑顔に浮かんだ青筋が、あまりにも恐ろしすぎた。 「えっと、あの…」 「これはっスね…」 二人がごにょごにょと言い訳を始めようとした所で、死刑宣告の如く、シノンがきっぱりと言い放った。 「二人とも。ちょっとツラ貸せ」 笑顔のままのシノンに、ヨファとガトリーはこくりと儚く頷くとそのまま食堂の外へと消えていった。 ─…そして。 出ていって数秒後に聞こえてきた叫び声と殴る音に、キルロイはただ手を組み、哀れな子羊二人の無事を祈ったのであった。 end. どたばたギャグなシノン受を書きたい!!と言う想いだけで突っ走ったら何かこうなったっていう。ちゃんと考えて書かなきゃダメですね、いやまぁ、楽しかったんですけど← |