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baby love




二、三日前から確かに体調は悪かった。

けれど、風邪というほどではなくて。

放っておいても、すぐに治るだろうと高を括っていたところへ、雨の中での仕事が入り。


──その結果。
当然、体調は悪化し、現在に至る。







「けほっ、ごほっ」

何度目になるか分からない、喉に絡み付くような咳を吐き出し、喉をさする。

そんな事をしたって良くならないのは百も承知だが、さすると少しだけ喉の痛みが和らいだような気がした。

「しんど…」

熱で怠い身体が邪魔だ。
思わず吐き出した溜め息は熱っぽくて、嫌になる。

傭兵の癖に体調管理も出来ないなんて、お笑い草も良いところだ。

きっとグレイル隊長がいたなら、随分叱られただろうと思い、自嘲まじりに笑う。

そんなことを熱に浮かされた頭でぐるぐると考えていると、扉から控えめなノック音が聞こえてきた。

その感じから、どうせ薬を持ってきたキルロイだろうと踏んで、ぶっきらぼうに返事を返す。

「開いてるぜ。どーぞ」

キィと音を立てて、遠慮がちに開かれた扉に視線を寄越す。
そこに立っていたのは、予想とは違った人物だった。

「…!ヨファ」

何でお前がと問い掛けようとした俺を遮るように、ヨファは手にしていたコップを掲げてみせる。

「薬湯だよ。キルロイさんが作ってくれたんだ。飲むと少し楽になるって」

言いながら、ベッドの近くの椅子に腰掛け、じっと俺を見つめる。

「辛そうだね…」

コップを片手でぎゅっと握り、空いた手で俺の額に手を当てる。
辛そう──というなら、よほど今のヨファの表情の方が辛そうだと思ったが、そんな悪態をつく元気もなくて、伸ばされた手を甘んじて受け入れる。

いつもはあたたかく感じる手も、今日は少し冷たく感じて心地いい。

熱が高いのが自分で分かって、ふらふらとした頭を押さえて薬湯に視線を送る。

「それ、熱にも効くんだろ?」

「うん。風邪によく効くってキルロイさんが言ってた」

「それ、飲むからこっちに寄越せ」

ほらと言いつつ、薬湯を飲むべく起き上がろうとすると、ぐいとベッドに押さえ付けられる。

「起き上がっちゃダメ。辛いんでしょ?」

「だから、それを─…」

飲ませろと続けようとした言葉は遮られ、いきなり口付けられる。

ぽかんと開いた口に注ぎ込まれてくる液体を半ば反射的に飲み込む。
僅かに零れた雫を、猫のようにぺろりと舐めると、ヨファはようやく身体を離した。

「まだもう一口あるから」

口、開けててと当たり前のように告げられ。拒否も出来ない雰囲気に、俺はただただ従うしかなくて。

気怠げに開けた口に、また薬湯が注ぎ込まれる。
それを今度は溢さずに、全部飲み込むと、よく出来ましたと言わんばかりに、深く口付けられる。

「ん…っ」

息がしづらくなるような深い口付けに、ぐいと肩を押す。普段なら、それくらいで離れようとはしないが、今日はあっさりと離れた。

「ごめんなさい。苦しかった?」

あんまり辛くないようにしたつもりだけど、と言葉を続けられ、風邪とは違う頭痛がした。

思いきりため息をつきながら、呆れ混じりに言葉を吐き出す。

「そうじゃねぇよ。…んなことして、風邪伝染ったらどうすんだ?」

「伝染ってもいいよ。シノンさんのなら」

覆いかぶさるように顔を寄せられ、ギシと音を立てて、ベッドが軋んだ。

今にも口付けしそうな様子のヨファの顔をぐいと押し退ける。

「馬鹿か。弟子に風邪なんか伝染せるか」

「伝染した方が治りが早いって言うよ?」

「だとしても御免だ」

風邪を引いたってだけでも、お笑い草なのに、その上弟子に伝染したなんてことになったら恥としか言いようがない。

だから、離れろと言わんばかりにぐいと身体を引き剥がすとヨファの嬉しそうな瞳とぶつかった。

「そっか。僕に伝染すの嫌なんだ」

「…?だから、そう言ってるだろうが」

何度言わせる気だと眉間に皺を寄せると、酷く嬉しげな様子でごめんなさいと謝られる。

何が嬉しいんだかとため息をつくと、カタリと音を立てヨファが立ち上がった。

「じゃ、また夜に持ってくるから」

そうヨファがカップを掲げて上機嫌に笑う。

「おう」

ひらひらと手を振って、扉の向こうに消えた弟子の姿を見送る。
薬湯を飲んだおかげか、喉の痛みが少し引いていて。この調子なら、夜にヨファが持ってくる頃には、きっと起き上がるくらいは出来るようになっているだろう。

──…けど。

「あの調子だと無理かもな」

また、辛いなら起き上がらなくて良いと言われてしまいそうで。きっとそれを拒めないんだろう自分が浮かんでため息を吐く。


─…でも。


「…ま、たまには……」

許してやっても良いか…なんて思ってしまうのは、きっと今、熱で浮かされているからだ。

そう自分に言い訳をして、まだ温もりの残る唇を噛みしめ、布団を目深に被った。





end.




シノンさんのヨファへの甘さが酷いですね、コレ(笑)
でも、シノンさん大好きーvvって直球で来られるとシノンさんは弱いと思います。ほら、ツンデレだからww