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夢想歌




戻ってきてくれるっていうことが、夢みたいだった。

けど、嬉しいって気持ちとまたどこかに行ってしまうんじゃないかって不安がぐるぐると渦を巻いて。



…結局、最後には不安だけが残ってた。







はぁと何回目になるのか分からないため息を吐き出して、目の前のドアを見つめた。静かな廊下にやけにそのため息が響いて。何気なく目をやった廊下の向こうの飲み込まれそうな暗闇に体がぞくりと震えた。

「……シノンさん」

不安になって、小さく小さく扉の向こうにいる人の名前を呼んで、ため息を吐く。
―その瞬間、ギシリと扉の軋む音と共に、ゆっくりと扉が開いた。驚いて後ずさったぼくの目に、思いがけない人の姿が映った。

「シノン…さん」

擦れた声で名を呼ぶと、けだるげにぼくを見下ろすシノンさんの視線とぶつかった。

「どうした、ヨファ?こんな時間に」

いつもは寝ている時間だろうと言われて、黙りこむ。

―シノンさんが、またどこかに行ってしまわないか不安だなんて。

そんなこと言えなくて、俯いてぎゅっと自分の服の端を掴んで、首を横に振る。

「…怖い夢でも見たのか?」

ぽんと、気遣うように頭を撫でてくれた手があったかくて。俯いたまま小さく頷いた。

「…その…怖いから、一緒に寝ていい?」

怖い夢を見た、なんて嘘をついたことに、胸が少し苦しかったけど、何でもないフリをして、じっとシノンさんを見つめる。
シノンさんは、しばらく黙って、大きくため息をついて。…それから、そっとぼくの背中を押してくれた。

「…入れよ。今日だけ、一緒に寝てやるから」

「ありがとう!」

その言葉が嬉しくて。にこって笑いかけて、駆け足で部屋の中へと入った。

部屋の中はしんとしていて、何人かいる相部屋の人たちはみんな寝静まっているようだった。
その人たちを起こさないようにって気を付けながら、静かにベッドに潜り込む。
さっきまで寝ていたベッドはあったかくて。それが何だか嬉しくて、頬を緩ませていると、静かにベッドにシノンさんが潜り込んできた。

「せまくない?」

「気にしなくていい」

出来るだけスペースを開けようとしていたぼくにシノンさんは短くそう答えて、体を寄せた。
すぐにでも触れられそうなくらい近くにいるのに、何だか不安で。投げ出された手にそっと指を絡めた。

「………」

怒られるかな、なんて思ったけれど、シノンさんは僅かに身じろぎしただけで、何も言わなかった。


手を通して伝わってくるぬくもりはあったかくて。

その手に、もうどこにも行かないようにって願いを込めて、ぎゅっと強く握り締めた。



END



19章クリア後に勢いだけで書き上げたブツ(笑)
ヨファはナチュラルに甘えてるのが好きです。いや、腹黒も大好きですが←←