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Digitalis




ホレた方が負け、だと世間では言うらしいが。


なんだかんだとコイツに甘い俺は、負けたことになるんだろうか?


ふと沸いたその疑問の答えに気付きたくなくて。

むっとした表情のまま、目の前に出された酒と一緒にその疑問を飲み込んだ。






「…だから、そういう訳なんだ」

「へぇ…」

とりとめもない話をしながら、用意されたグラスに酒を注ぐ。
目の前にいる相手も、俺の話に相槌を打ちつつ、グラスを重ねていた。


─…久しぶりに取れた二人の時間。

訓練も兼ねて一戦交えようと意気揚々と部屋をノックした俺に返されたのは、いつもの穏やかな笑みと一本の上等な酒瓶。


永遠の好敵手である糸目──オスカーの言い分はこうだった。

『久しぶりの時間だから、話をしたい』と。

訓練では、ロクに話も出来ずに時間が過ぎていってしまう。だから、今回はゆっくりと過ごしたい。


そう言ったオスカーは、有無を言わせない雰囲気があって。
ぴかぴかに磨いた斧の重みは、その要求を受け入れる気はなかったのだけれど。


…何故だろうか。気づけば、素直に頷き、グラスに並々と注がれた酒を飲み。
そして、飲みながら語っている内に、夜の始まりを示していた時計の針は、すっかり深夜へと突入していたのだった。






「随分と、暗いな」

ふと窓の外を見れば、空はもう随分と暗く、月もない。
明かりといえば、部屋を照らすランプが細々と照らしている程度だ。

「今日は、月が見えないからね」

その言葉と共に、オスカーが立ち上がり、さっとカーテンを閉める。
突然の行動に疑問符を浮かべていた俺に、オスカーは綺麗な──そう、背筋が凍るくらいに綺麗な微笑を浮かべた。

「もう遅いから、そろそろ寝ないかい?」

「あ、あぁ…。じゃあ、俺はこれで─…」

失礼する、と立ち上がろうとしたところで不意に唇を塞がれる。
突然のことに、目を白黒させていた俺などお構いなしに、薄く開いていた唇に舌が差し込まれた。

「んっ!?んんっ…!」

絡め取るような深い口付けに、咄嗟に体を離そうと腕に力を込める。
けれど、寄せられた体はびくともしなくて。
何度も、何度も角度を変えて与えられる口付けに、結局抵抗する力は奪い取られ。
気づけば、床へと押し倒される形になっていた。

「お、おい…、オスカー…!」

ようやく解放されたところで、睨みをきかせながら荒い呼吸を整え、頭上から覗き込んでいる同僚の名を呼ぶ。同僚は、悪びれた様子もなく、ただただ微笑を浮かべていた。

「何?」

「貴様…っ!寝るのではなかったのか!」

短い問いかけに、精一杯の怒気と勢いを込めて言葉を発す。
普段ならそこで、オスカーが困ったように笑って、俺に謝って終わり。

──のハズなのに。



…今日のオスカーは、違っていた。
俺の言葉を聞き、確かにと頷いて。


そして、驚くほど綺麗に──笑った。


「あぁ、寝るよ。…君と一緒に、ね」

「そんなの、聞いて─!」

ない、という言葉は当然発言が許されることはなく。
再び落ちてきた唇に、あっさりと塞がれた。






「─っつ…!」

何度目になるのか分からない、己の欲を吐き出して肩で息を吐く。

目尻に浮かんだ生理的な涙が、すっと汗と共に頬を伝い落ちる。

それを、後ろからそっと、白く長い指が掬い取っていった。

「泣いてるのかい?」

「─っ!泣いてなど…っ、ぅあ…!」

優しい言葉と共に、不意に与えられた刺激に、びくりと体が反応する。
涙を掬い取っていた優しい指先は、今は精を吐き出したばかりの己自身を愛撫していて。


もう何度も、何度も吐き出したはずなのに。
指先が動くたびに、熱くなっていくのを感じていた。

「…まだまだ、足りない?」

ふっと笑うように囁かれた言葉にぞくりと背筋を甘い痺れがかけていく。
その痺れを振り払うように、咄嗟に首を横に振った。

「や、めろ…っ!」

離せ、と与えられる刺激に振り回されそうになりながらも、何とか言葉を紡ぐ。
先ほどから、一方的に与えられるばっかりで、俺の意見なんか完全に無視の状態だ。
それが、酷く嫌で。必死に拒否の意思を示したのに。
愛撫は止むどころか激しさを増し、耳元には嘲笑にも似た囁きが落ちてきた。

「…良いよ。ちゃんと、嫌だって君が言えたら、止めるよ」

「っあ…!や…ぅ!」

己自身の愛撫と共に、耳に噛み付くように口付けられ、甲高い声を上げそうになる。それを何とか唇を噛んで忍び、快楽に溺れそうになる意識を必死で抑えた。

「ほら、止めて欲しいなら嫌って言わないと」

「ひぁ…っ」

穏やかな声音とは裏腹に、容赦ない愛撫が次々と与えられる。
頭では、言わなくてはと思うのに。

実際は、与えられる刺激に意識を奪われないように耐えるのが精一杯だった。

「…嫌って言わないなら、好きにさせてもらうよ?」


有無を言わさない言葉に抵抗する余地などなく。
普段の穏やかさは嘘かと思うくらいの強引さで、何度か触れられていた秘所に熱い塊が突き入れられた。

「っつぅ…!」

何度か触れられていたとはいえ、普段よりも強引な挿入に体が悲鳴を上げる。
滲んでいただけの生理的な涙がぽろぽろと頬を伝い、床を濡らしていく。
苦痛で言葉も発することが出来ない俺を気遣うように、優しい口付けが背中へ落とされた。

「ふ…、く…」

何度も、何度もあやすように落とされる口付けに体の強張りが徐々に解けていく。
それをオスカーも感じ取ったのか、口付けと共に突き入れられた熱がゆっくりと動き始める。

「っは、あ…っ」

ゆっくり、ゆっくりと動いていく熱が、苦痛に固まっていたはずの身体を快楽へと変えていく。
あやすような口付けはそのままで、徐々に徐々に動きだけが荒くなっていき。
しばらくする頃には、繋がった部分から響く淫靡な音が部屋中を満たしていた。

「っつあ!や…!」

何度も何度もあげそうになる嬌声を必死に押し殺して、ぎゅっと瞳を閉じる。
そんな俺の耳元に不意に酷く優しい声が響いた。

「…愛してるよ」

その言葉と共に、ぐっと一段と深く突き入れられ。
必死に繋ぎ止めていた意識は、白く弾けた。






「何が……愛してるよ、だ!」

思いっきりしかめ面をして、頭を撫でようと伸びてきた腕を、ハエ叩きの要領で叩き落す。
痛いという言葉と共に引っ込められた手のひらは、反省した様子もなく。
撫でるのを諦める代わりといったように、ぎゅっと抱きしめられる。

「えぇい、離せ!暑苦しいっ!」

「ケビン。もう遅いから、静かに…」

「騒がしくさせているのは、貴様の──!」

所為だろう、という言葉はあっさりと唇に塞がれ。
謝る代わりといったように、ぽんぽんと軽く背中を叩かれる。

「オスカー、貴様…」

「痛かったろう?すまなかった」

「………」

すまなかったと思うなら、始めからするなとか色々言いたい言葉はあったけれど。
抱きしめる腕からは強引さがなくなっていて、いつもの穏やかな雰囲気だけだったから。



──だから、つい。

本音が零れてしまっていた。


「…すまないと思うなら、次からはちゃんと俺の意思を聞け」

「……こういうこと、嫌じゃないのかい?」

「嫌に決まってるだろう」

何を当たり前のことを、と毒気づく。

何処の世界に好き好んで、永遠の好敵手と定めた相手に身体を開かれたいと思う者がいるというのか。


「……だが、貴様が相手なら……考えなくもない」


──嫌な事実ではあるが、それが本心だ。
嘘偽りはないということを示したくて、まっすぐオスカーを見据えれば、そっと触れるだけの優しい口付けが落ちてきた。

「…分かった。今度からは、無理にはしないよ」

「当たり前だ!こういうのは相互の意思が疎通しあってこそ─」

「はいはい」

「俺の話を聞け!大体貴様はだな──」

悪態を精一杯ついてやろうとしていた俺の言葉を遮って、再び口付けが落ちてくる。
優しい口付けは、酷く心地が良くて。
まだまだ言ってやりたいことは山のようにあったはずなのに。

静かに瞳を閉じて、そのぬくもりを受け入れていた。



──余談だが。

後日、この日の「俺の許可を取ってからしろ」発言に、俺が頭を悩ませることになるのは、また別の話。



end.




こういうちょっと余韻を残したものを書いてみたくて書いたんですが、何か余韻も何も残ってないっていう残念なお話になってますorz
オスカー兄さんが若干S入ってるのは涼翅の趣味です←←

【Digitalis】
花言葉:熱愛