Miltonia例えるならそれは、降り注ぐ雪のように。 静かに、薄く、積み重なっていく。 はぁ、と何度目になるか分からないため息を吐き出し、空を仰ぐ。 ため息の数ほど見上げている空は、朝から変わらず雨で、絶える事のない雨音が城全体を包んでいた。 「そんなに見ても、そう簡単には天気は変わらないよ」 諭すような、苦笑混じりの声音に視線を室内へと戻せば、見慣れた糸目がカップを二つ持って立っていた。 「…分かっている」 重々しく頷いて、視線を落とす。 ─お互い、久しぶりの休暇。 休暇が重なるなど中々ないということもあり、馬術の訓練を兼ねて、勝負をしようと約束を交わしていたというのに。 ……そんな大事な日に限って、外は朝から土砂降りの雨。これでは馬術の勝負など出来ない。 ─…分かってはいるが、納得出来ることではなかった。 「くそっ…!早く止めば良いものを」 「仕方ないよ。朝からずっと見ていただろう?今日は止みそうにないと思うよ」 穏やかな声と共に、すっと目の前に湯気の立つカップが差し出される。再び顔を上げれば、穏やかな笑みにぶつかった。 「紅茶は嫌いかい?」 「いや、嫌いじゃないが…」 「飲んで。あったまるよ」 確かに外が雨のせいか肌寒くはあったが、何かを口にする気にはなれなくて。 飲みたい気分じゃないと言おうとしたが、その言葉を遮るようにカップが差し出され、渋々それを受け取り口に運ぶ。 「…?甘い…?」 手にしたカップの中の琥珀色からは、口の中に微かに残った匂いと同じ、甘い柔らかな香りがして。 その甘い匂いには、確かに覚えがあって。それが何なのか探ろうと、もう一口飲み込むと、微かに舌先に柔らかな甘さが広がった。 「林檎、か…?」 自然な甘さと香りは、確かに口に出した果物のもので。 正解かどうかを確かめようとカップから顔を上げると同時に、額に柔らかな熱が落ちていく。 「正解」 その言葉と共に、柔らかな笑みが至近距離で向けられ、思わず後ずさる。 同時に、額に触れた熱が何であるのかを悟って、顔が急激に熱くなるのが分かった。 「…雨、止まないね」 ふとかけられた言葉に思い出したように、窓の外を見る。 外は、相変わらずの雨。 耳を打つうるさい雨音もそのままだ。 ──けれど、何故だろうか。 あんなに止めば良いと願っていた雨なのに。 ……不思議と、嫌ではなくなっていた。 end 【Miltonia】 花言葉→愛の訪れ |