ハピネス―貴方が、そこに存るってコト。 あたしにとっての幸せはきっとそんな単純なこと。 「ワユさん」 やさしくて大好きなキルロイさんの声があたしの名前を呼ぶ。 振り向いたあたしの目に飛び込んできたのは、やさしく微笑んだキルロイさんの体から刃が生えた姿。 ゆっくりと地面に倒れていくのを呆然と見つめて。 赤い水溜りに沈むその顔にそっと触れる。 色白な肌は既に蒼白と呼ぶに相応しくて、投げ出された手はいつもよりもずっと冷たかった。 どうすれば良いのかなんて全然分からなくて、ただただ、冷たくなっていくその手を必死にこすり合わせて、熱が戻るようにと祈るしか、なかった。 けれど、徐々に徐々に熱は去っていってしまって。 …やがて、氷みたいに冷たくなった。 「――っ!!」 ばっと瞳を開けると、闇夜を照らす明るい月が見えて、一瞬思考が止まる。 すぐに起き上がって、辺りを見回すと隣で心配そうにこちらを見つめるキルロイさんと目が合って。ようやく、記憶がはっきりしてくる。 「ワユさん、大丈夫?寒くない?」 ずっと丘の上で昼寝したままのあたしを迎えに来てくれたんだろうか。毛布を片手に持ったまま、そう尋ねてくれるキルロイさんの姿をじっと見つめる。 「キルロイ、さん…」 起き掛けのせいか掠れた声で名前を呼んで、手を差し出す。 …あれは夢だって分かってても、どうしてもあの冷たい手の感触が忘れられなくて。 温もりをちゃんと感じたくて差し出したその手を、そっと優しく握り締めて、キルロイさんがあたしを見つめた。 「どうしたの?やっぱり寒い?」 そう尋ねてくれる声も、握り締めてくれてる手も、酷くあったかくて。 そのあたたかさがやさしくて、嬉しくて。あれは夢なんだって全身で教えてくれてるみたいで、泣きそうになる。 それを必死に堪えて、握り締めてくれていた手にもう片方の手を重ねて、笑ってみせた。 「あのね、あたし今すごく幸せだなって」 「え?」 あたしの言葉に面食らってるキルロイさんが可笑しくて、笑みが零れる。 「キルロイさんがいてくれて、あたし幸せだよ」 ―夢の中みたいに、いなくならないでいてくれて、ありがとう。 そう声に出さずに呟いて、生きてるって伝えてくれている温かな手を、ぎゅっと強く握り締めた。 END 前半の暗さは自分の悪いクセみたいなもんですね;; ほんわかした話がキルワユには合う気がします。 |