アナタノトナリ軍に付いて行くと決めたばかりの頃は、怖くてぎゅっと目を瞑りたくなることだって多かったのに。 …いつからだろう。 こんなにもしっかりと前を見据えられるようになったのは。 すぅと氷のように冷たい空気を吸い込み、少しづつ近づいてくる戦場を見つめる。 今はまだ遠いけれど、敵の軍の姿が見えて、どくりと心臓が重く鳴った。 ―もうすぐ戦が始まる。 少しづつ張り詰めていく空気を感じて、僅かに息苦しさを覚える。 恐怖や緊張で震えそうになる指で、ぎゅっと手元の弓を握り締めた。 「…大丈夫か?」 「――っ。サザさん…」 隣から聞こえた声にほっと緊張が解ける。緑の強い眼差しはじっと私を捉えていて、その視線に笑顔で返した。 「…大丈夫です。少し、緊張しているだけですから」 「…そうか。緊張しすぎないようにな」 ふいと視線を逸らしてそう言ったサザさんに、小さく頭を下げる。 しんとした空気の中、行軍の音だけが静かに響く。 先程まで遠くを歩いていたはずのサザさんは、気遣うように少し前を歩いていた。 ―その背中は私と同じくらいの身長なのに、頼もしくて。 まっすぐに前に向かって歩いていく姿につられるように、前を見据える。 …ただ、それだけなのに。 震えていた指はいつの間にか、力が抜けていて。 重く鳴っていた鼓動が少しだけ軽くなる。 「全軍、止まれ!」 予め伝えられていた待機場所に着いた私に、指揮官であるアイク様の声が届く。静かに馬を止めて、深呼吸して、まっすぐ前を見つめる。 敵兵はすぐそこに見える距離になっていた。 しっかりと弓を携え、馬の手綱を握り締めて。 視界の端に映る貴方に小さく微笑んで。 ―…そして、しっかりと前を見据えた。 END 少しおどおどしてるんだけど、意外とやる事は大胆なステラ嬢が愛しいです。 この二人はお互いがお互いを気遣いながら話してると良いなと思いますv |