アナタノオトとくん、とくん、とくん。 貴方の音が、私の耳に、心に響く。 やさしく、あたたかい柔らかな音。 アナタノオト 晴れ渡る青空にぐんと両手を上げて伸びをする。 見上げた空はどこまでも青く、高くて。突き抜けるような青と眩しい太陽に目を細めた。 「良い天気…」 人知れず呟いた呟きは宙に溶けて消える。 辺り一面に咲いた花々からは甘く優しい香りがして。思わず笑みが零れた。 食堂に飾る以外にも自室用に摘んでいこうかなんて考えていた私の思考を遮るように聞き慣れた大きな足音が耳に響いてきた。 「ミスト!」 呼ばれた声に顔を向ければこちらを見つめる優しい視線にぶつかって。 その視線に微笑み返してみせた。 「どうしたの?ボーレ」 何かあったの、と続ければボーレは小さく首を横に振って、言葉を続けた。 「いや、兄貴がクッキー焼いたからお茶にしないかって」 たまにはそういうのも良いだろと、笑うその顔ににっこりと笑って頷く。 こんなお天気の良い日のお茶なんて、すごく素敵だし、それにオスカーさんのクッキーとお茶が付いてくるなんて最高の贅沢だ。 それに今日は珍しく皆お休みのはずだから、皆で一緒にお茶出来るかもしれない。 ─…そう考えただけで、嬉しさで胸が踊った。 「すぐ行くからちょっと待ってて」 ──折角の素敵なお茶会なら、やっぱりお花があった方が皆の気分ももっと明るくなるはず。 そう考えて、しゃがみこんで花を摘みだした私に視線を合わせるように、ボーレもしゃがみこんだ。 「花、摘んでくのか?」 「うん。綺麗に咲いてるから、皆にも見せてあげたいし」 そう言って早速近くの花から摘んでいくと、目の前に綺麗な淡い藤色の花が差し出される。 きょとんとした顔でそれを見つめていた私に、ボーレの楽しげな声が頭上から降ってきた。 「これ、綺麗だから持っていこうぜ」 「あ、りがとう…」 予想外の事に目をしばたかせていた私をよそに、ボーレもしゃがみこんで辺りの花々を物色し始めて。 その後ろ姿が何だか微笑ましくて。ふわりと柔らかな笑みを一つ零して、私も辺りの花々を一つ一つ選んでいった。 「よし、こんなもんだろ」 そう言って手渡された一輪を抱き抱えるようにして持っていた花束に挿す。厳選して選んだつもりの花々はあっという間に大きな花束になっていて。 食堂の花瓶に入りきるだろうかなんて心配が頭を過ったけれど。満足そうに笑うボーレを見ていたら、何だかこっちまで嬉しくなってきて。 ──まぁ、いっか。 なんて考えて、つられるように笑みを零した。 「さ、そろそろ行こうぜ」 掛けられた言葉に頷いて立ち上がろうとした瞬間に足元にあった石に思いきり蹴躓いて、ぐらりと体勢が崩れる。 目の前に迫る地面に、花だけでも守らなきゃと花束を抱き締めた腕に力を込めると、横からすっと腕が伸びてきて。 地面に向かっていた身体がぐいと横へと引っ張られる。 「ミスト、大丈夫か?」 何が起こったのか分からず、目をぱちぱちとしばたかせていた私の頭上から、気遣うような優しい声が落ちてきて。 寄せられた身体から伝わる熱と、しっかりと抱き締める腕の感触に気付いて。抱き止められたのだと分かって、かぁっと頬が赤くなるのが分かった。 どくん、どくんと早鐘を打つように鳴る鼓動の音がボーレに伝わってしまいそうで。 ぎゅっと瞳を閉じた私の耳に、同じように早鐘を打つ音が聞こえてきた。 どくん、どくん、どくん。 急ぐようなその心音は、確かに押し当てていた耳から聞こえてきて。はっとして瞳をあける。 私の心音と重なるように、耳に響くボーレの鼓動はいつもよりも早く。 ──どくん、どくん、どくん。 …あぁ、ボーレも私と一緒なんだって。そう思ったら自然と笑みが零れていた。 少しの緊張と嬉しさで早鐘を打つ私の心音は未だ落ち着かないままで。 押し当てた耳から聞こえてくるボーレの早く刻む鼓動が、嬉しくて愛おしくて。 急ぐように刻む鼓動を重ねるように、そっと瞳を閉じた。 end. 某アニメの挿入歌からタイトルつけさせて頂きました。 心臓の音って、聞いてるとすごく安心しますよね。それが大好きな人のだったら、尚更かなという妄想です(笑) ボレミはほのぼのでもラブラブでも可愛くて良いですね! 乱文にお付き合い下さいまして、ありがとうございました! 2010.10.27 |